第99回西日本脊椎研究会  抄録 (特別企画)


8.体幹リハビリの基本理念 joint by joint theory; biomechanical prospect

徳島大学整形外科

森本 雅俊(もりもと まさとし)

 診療において罹患部位のみでなく、隣接関節も考慮することは重要なことである。腰椎の隣接関節は股関節および胸椎になるが、我々は、特に胸椎の重要性に着目している。今回、我々は有限要素モデルを用い腰椎疾患における胸椎の柔軟性の重要性を検討した。
 胸椎~大腿骨からなる有限要素モデルを作成した。intactモデルに加え、胸椎の靭帯を硬くしたものと柔らかくしたモデルを作成した。さらに、L4/5の椎弓切除も行い、術前および術後の影響の差を調べた。大腿骨を拘束し、T1椎体にトルクを加えた。
 結果は、胸椎の柔軟性が低下すると腰椎椎間板や椎間関節に加わる負荷は増大し、逆に、胸椎の柔軟性が増加すれば腰椎椎間板や椎間関節に加わる負荷は低下していた。さらにその影響は、L4/5椎弓切除モデルの方が大きかった。
 我々は、腰椎疾患患者に対して、胸椎の柔軟性に着目したリハビリを積極的に行っている。今回の結果から、術前も術後もいずれも、胸椎のリハビリは腰椎疾患に対し効果的であることが分かった。さらに、術後の方がより重要であることが分かった。
9.胸椎のmobilizationで腰椎を護る

八王子スポーツ整形外科 リハビリテーション部門

笠舛 拓也(かさます たくや)

 アスリートの腰部障害は発生頻度の高い問題であり。スポーツ活動における誤った運動の繰り返しにより腰椎へのメカニカルストレスが増大し、障害発生に至ることが多い。この誤った運動の繰り返しには身体機能が大きく関与するため、身体機能の改善を目的としたリハビリテーションの実施が重要となる。アスリートの腰痛に対しリハビリテーションを進める際には、障害が発生した腰椎周囲の機能にだけ目を向けるのでは不十分であり、腰椎に隣接する関節機能からの影響を踏まえた原因追求および治療介入が不可欠である。よって、腰椎に隣接する胸椎に対する評価・治療が重要となる。日々の臨床においても、胸椎の可動性低下の結果、腰痛が引き起こされていると考えられる症例が散見される。このような症例に対しては、胸椎の可動性獲得を目的としたリハビリテーションが奏功する場合が多い。
 本講演では、胸椎へのアプローチが奏功した腰痛アスリートに対する治療経験を例に、腰痛アスリートに対する胸椎への評価・介入の実際について紹介する。
10.腰椎を護るためにDysfunction&No Pain jointを探る

徳島大学病院 リハビリテーション部1)、徳島大学大学院 地域運動器・スポーツ医学2)、徳島大学大学院 運動機能外科学3) 

友成 健(ともなり けん)1)、山田 めぐみ1)、藤谷 順三2)、西良 浩一3)、松浦 哲也1)

 腰痛を有する患者は非常に多く、有訴者率および受診率ともに例年上位を占める。アスリートにおいても例外ではなく、アスリートの腰痛罹患率は非アスリートと比較し高く、30%以上がキャリアの間に複数回腰痛に悩まされている。そのため、どのような原因で腰痛が発症しているのか、問題点を抽出することが重要となる。
 近年、腰痛患者に対し、理学療法を実施する上で、「dysfunction & no pain joint」の評価および治療が着目されている。理論としては、患部(腰部)に原因はないが、患部以外の他関節の機能障害が連鎖的に作用し、腰痛の原因となるという考え方である。このように、我々理学療法士は、腰痛を治療する上で、患部周囲の機能のみではなく、隣接関節を含む他関節の機能障害の改善を目的に、理学療法を展開していく必要がある。
 本演題では、スパイク動作時に肩関節および胸郭の機能障害により、腰椎の過剰な伸展・側屈・回旋動作を認めたプロバレーボール選手(腰椎椎間板ヘルニア術後)の術後理学療法を例に報告する。
11.脊柱変形に対する体幹キネマ運動療法

徳島大学大学院 地域運動器・スポーツ医学1)、徳島大学病院 リハビリテーション部2)、徳島大学大学院 動機能外科学3)

藤谷 順三(ふじたに じゅんぞう)1)、友成 健2)、西良 浩一3)

 加齢に伴う後弯症など脊椎変性疾患の治療として、一般的に固定術が適応される。立位姿勢が改善し痛みや痺れの軽減が期待できるが、固定部位の隣接関節にmechanical stressが加わることで再手術を余儀なくされたり、long fusionの場合は術後にADLが低下する可能性がある。徳島大学では、仰臥位になれる程度の脊椎柔軟性が残存している場合や、やむを得ず固定術を行う場合でも出来るだけ最小限とし、Pilatesによる運動療法で筋力や柔軟性の回復とともに、kinematiccontrol(運動制御)の習得により、手術や再手術の回避・延期に挑戦している。
 Pilates は Joint by Joint Theory に基づき腰椎の安定性向上、胸椎と股関節の可動性向上をねらいとし、専用機器やマットを用いて、体幹の安定、脊椎の軸の伸長、分節的な可動、全身の統合などkinematic control を促す。
 これまでPilates による運動療法を目的とした患者が県内外から来られている。研究会当日は代表症例を供覧したい。
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