第99回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題Ⅰ)


1.頚椎神経根除圧の前方除圧のコツと後方除圧との比較
(Point of cervical nerve root decompression from anterior approach and comparison with posterior approach)

白石共立病院 脳神経脊髄外科1)、国際医療福祉大学 医学部 脳神経外科2)

本田 英一郎(ほんだ えいいちろう)1)、劉 軒1)、田中 達也2)

1.頚椎前方除圧固定術(特に神経根除圧について)
 通常の前方アプローチで、病変部の椎間の前面を露出して、椎間板腔を掻把し、後縦靭帯の上下の椎体の骨棘をダイアモンドドリルにて削除し、ルシカ関節下面も可及的に削除する。後縦靭帯を後縦靭帯spatulaにて挙上し、これを横切開してケリソンパンチで削除しながら、外側に広げると後縦靭帯の厚い深層は消失し、薄い浅層のみが見られる。この浅層下に神経根が存在するのでまずは、浅層上部の残存diskやosteophyteを取り除き、浅層下をヘラで挙上するとヘラが薄っすらと見えるところまではケリソンパンチで切除する。浅層の外側が神経根と癒合しているためである。この時点で神経根の一部や頚髄との腋窩が露出される。
2.結果と考案
 本格的に後方除圧を始めて4年の経過であり、直近4年間での両者20例づつを検討した。痛みに対しては両者の除圧は全く同一程度であった。むしろ前方除圧で無症候性隣接椎間障害の形態変化が4例に見られた。一方後方除圧の術後の頚椎不安定や再発はなかった。単に1,2椎間の一側の神経根除圧のみであれば、後方除圧はより低侵襲である。
2.経皮的環軸関節後方固定術を安全に遂行するための術前血管評価 -静脈叢から出血させないために

岡山旭東病院 整形外科

時岡 孝光(ときおか たかみつ)、土井 英之
 
【目的】経皮的環軸椎後方固定術を安全に遂行するため造影CT-angiographyで動脈と静脈系の造影を行い血管損傷のリスクを評価した。
【方法】イオパニドール370の80mlを静注し、動脈と静脈相を20秒間隔でCT撮影し3D画像として再構成した。症例は経皮的C1-2固定の5例(C1-2群)と対照群として中下位頚椎固定の4例(中下位群)で、疾患は歯突起骨折3例、環軸椎亜脱臼1例、歯突起骨1例、頚椎骨折2例、頸髄症2例であった。
【結果】動脈相ではC1-2群ではhigh riding VAは2例、中下位群でC1、C2の外側塊の貫通が各1例あった。静脈相の所見は、静脈叢は後頭骨と環椎後弓の間(O-C1)ではC1-2群で両側3例、片側2例、中下位群で両側4例、環軸関節背側(C1-C2)では3例(C1/2 群1例、中下位群2例)に認められた。VAと静脈を3D fusionさせるとV4segmentに絡み付いた静脈叢がO-C1で明瞭に描出されていた。
【結語】静脈叢の程度は個人差が大きく、術前評価は有用であった。
3.椎体浸食をともなう頚椎ダンベル腫瘍に対する術前腫瘍塞栓術の経験
 
高知大学 整形外科1)、高知大学 放射線診断・IVR 学講座2)

田所 伸朗(たどころ のぶあき)1)、塩見 昌章1)、溝渕 周平1)、喜安 克仁1)、池内 昌彦1)、松本 知博2)、山上 卓士2)
 
 腎がんなどの転移性脊椎腫瘍に対する術前腫瘍塞栓術は、術中出血量減少に有効と報告されている。頚椎ダンベル腫瘍は大きさ、局在や伸展の程度によって1000ml超の出血の報告もあるが、術前腫瘍塞栓術に関する報告は少ない。椎体浸食をともなう頚椎ダンベル腫瘍に対し術前腫瘍塞栓術を行い手術を施行した70歳代女性の症例を経験したので報告する。左上肢の痛みと筋力低下を主訴に紹介となり、左C3/4椎間孔を中心にC4椎体の半分以上を腫瘍に浸食されたダンベル腫瘍を認めた。腫瘍切除と脊柱再建を後方手術と前方手術の二期的手術で計画し、後方手術の際に椎体部の腫瘍からの出血のコントロールに難渋する可能性を考え手術前日に放射線診断科に依頼し腫瘍塞栓術を行った。後方手術の出血は350ml、前方手術は100ml で周術期に輸血は必要とせず合併症なく麻痺は回復した。病理診断は神経鞘腫であった。今後の検証が必要であるが、止血に難渋する原発性脊椎腫瘍に対する術前の塞栓術は有用な補助治療になる可能性がある。
4.後頭頚椎固定術に初期固定強度を高めるためにC1/2 trans articular screwを使用した8例 ―従来のPedicle screwとの比較―
 
琉球大学大学院医学研究科 整形外科学講座
 
金城 英雄(きんじょう ひでお)、島袋 孝尚、宮平 誉丸、藤本 泰毅、青木 佑介、大城 裕理、當銘 保則、西田 康太郎
 
【はじめに】Trans articular screw(TAS)は、椎間関節を貫く比較的強固なスクリューである。今回、後頭頚椎固定術において、C2へ挿入するスクリューをTASと従来のpedicle screw(PS)とを比較検討したので報告する。
【対象と方法】対象は20例(男性11例、女性9例)、手術時平均年齢63.5歳、平均経過観察期間58.5ヵ月、TAS群8例とPS群12例の術前後・最終経過時の単純X線側面像による頭蓋頚椎アライメント、CTによる骨癒合評価を検討した。
【結果】後頭頚椎アライメントは、術前各平均でADI 2.4mm、OC2角 22.3°、C2-7角 8.9°、術後はADI 1.3mm、OC2角 26.6°、C2-7角 11.9°で、 両群とも最終経過観察時に維持されていた。CTで骨性癒合を確認できた症例はTAS群6例(75.0%)、PS群7例 (58.3%) であった。特にTAS群では全例C1/2椎間関節の癒合もしくは骨性架橋を認めた。
【結語】後頭頚椎固定にC2 TSAを使用することは骨癒合に有利である可能性がある。
5.頸椎黄色靭帯石灰化症の術後に残存した病変にファモチジン内服が奏功した1例
 
香川大学医学部付属病院 整形外科
 
山本 修士(やまもと しゅうじ)、小松原 悟史、藤木 敬晃、石川 正和
 
 黄色靭帯石灰化症は頸椎手術例の中で1%程度と比較的稀な疾患である。石灰化はカルシウム結晶が沈着することで生じるが機序は現在も不明である。演者らは黄色靭帯石灰化症に椎弓形成術を行い、残存した石灰化巣に対してH2ブロッカーを3カ月内服し、消退した1例を経験したので報告する。
 症例は65歳女性。1年半前からの後頚部痛、半年前からのしびれ、筋力低下を主訴に受診した。初診時、深部腱反射異常は認めなかったが、右の手関節背屈以下にMMT4の筋力低下と右上下肢の疼痛を認めた。画像でC5/6高位に腹側背側に11mm大の黄色靭帯石灰化巣を認めた。脊髄症と診断し、手術はC4-6片開き椎弓形成術を施行した。石灰化巣は鋭的に剥離し可及的に摘出した。術後症状は改善したがCTでは病変の一部が残存した。適応外使用だが説明の上、ファモチジン内服を開始した所、術後3カ月のCTにて病変は消退した。肩関節の石灰性腱炎に対する治療同様、黄色靭帯石灰化症に対してもH2ブロッカー内服は有効な可能性がある。
6.椎骨動脈処理を要した頚椎ダンベル腫瘍術後再発の2例
 
琉球大学 整形外科

島袋 孝尚(しまぶくろ たかなお)、金城 英雄、宮平 誉丸、青木 佑介、大城 裕理、當銘 保則、西田 康太郎
 
 頚椎ダンベル腫瘍に対する部分摘出術の問題点として術後再発が挙げられる。頚椎ダンベル腫瘍に対する再手術は、腫瘍が椎骨動脈に及ぶことがあり、難渋することが多い。
【症例1】12歳、女性、6歳時に右C3/4ダンベル腫瘍に対して腫瘍摘出術(部分摘出)施行。術後、徐々に右C3/4椎間孔から脊柱管内にかけて腫瘍増大し、腫瘍は椎骨動脈を巻き込んでいた。後方から腫瘍摘出術を施行、超音波ドップラーを用いて椎骨動脈の位置を確認しながら周囲と癒着した腫瘍を剥離し、全摘を行った。術後1年6ヶ月、神経症状・再発を認めていない。
【症例2】54 歳、女性、41歳時に左C2/3ダンベル腫瘍に対して腫瘍摘出術施行。術中、左椎骨動脈損傷をきたし、コイル塞栓術にて止血、腫瘍部分摘出術となった。術後徐々に左C2/3椎間孔から脊柱管内にかけて腫瘍増大し、脊髄を圧排していた。後方から腫瘍摘出術を施行、瘢痕化した椎骨動脈と腫瘍を合併切除、全摘を行った。術後1年4ヶ月、神経症状・再発を認めていない。
【考察】超音波ドップラーを用いて剥離を行うことで腫瘍全摘が可能であった。初回手術で全摘をすることが重要と考えられた。
7.C1-2不安定症に対する後方手術の治療成績 ~除圧術単独と固定併用の比較~

宮崎大学医学部 整形外科

松本 尊行(まつもと たかゆき)、濱中 秀昭、黒木 修司、比嘉 聖、永井 琢哉、高橋 巧、帖佐 悦男

【はじめに】環軸椎亜脱臼などのC1-2不安定症は脊髄症状を呈し、手術加療を要することがある。治療法として後方固定術の有効性が報告される一方で、全身リスクが高い症例ではC1後弓除圧術単独での治療にて良好な成績を得たとの報告もある。当院の治療経験を後ろ向き検討し、固定併用(固定群)と除圧術単独(非固定群)の治療成績を検討する。
【方法】対象は2016年から2023年にC1-2不安定症(関節リウマチ、ダウン症、外傷を除く)にて手術施行、術後1年以上経過観察可能であった13名(男性9名、女性4名、平均年齢77歳、固定群8名、非固定群5名)とした。検討項目は術前後の頚椎JOA、術前環椎歯突起間距離(ADI)、術前頸椎アライメント(C2-7 SVA、頚椎前弯角(CL)、T1 Slope(T1S)) とした。
【結果】両群間で年齢、術前JOA、術前後JOA変化、ADI、頸椎アライメントは有意差を認めなかった。
【考察】C1-2不安定症に対する固定術と除圧術単独の治療効果を比較した。本検討では、両群間で術前後JOA改善率の有意差は認めなかった。手術侵襲を考慮すると、除圧術単独での手術も有用な方法であると考える。
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