第98回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅳ)


24.MIST で治療を行った非結核性抗酸菌性脊椎炎の1例

成尾整形外科病院

田畑 聖吾(たはた しょうご)、成尾 政一郎、藤本 徹、尾崎 友則、坂本 祐史

【初めに】非結核性抗酸菌(NTM)は日和見感染症として問題となっている。NTMの約90%は、MAC(Mycobacterium avium complex)である。NTM性脊椎炎に対してMISTで治療を行ったので報告する。
【症例】87歳、男性
【主訴】腰痛
【現病歴】草刈り中に腰痛出現し、第1腰椎椎体骨折の診断で加療を行った。2年後に腰痛が継続するため再診した。X線ではL1椎体骨折はcleft形成し偽関節を呈していた。MRIではTh12~L2椎体までT1low、造影でring enhanceを認めた。CTでTh12からL2にかけて骨破壊を認めた。採血ではCRP1.2と軽度の炎症所見であった。PEDでL1/2椎間板掻破、洗浄、培養検査を行い、起炎菌はMACであった。PPSで後方固定術を施行し、二期的にMISTでの前方固定術を行った。RFN、EB、CAMを1年間継続し感染は沈静化した。
【まとめ】NTM性脊椎炎は椎体骨折の症状、画像と類似しており誤診に注意が必要である。MISTは高齢者の脊柱再建術にも対応でき有用であった。
25.椎体に浸潤した非小細胞肺癌に対し、根治的手術を行った3例

岡山大学 整形外科

鷹取 亮(たかとり りょう)、三澤 治夫、鉄永 倫子、魚谷 弘二、篠原 健介、小田 孔明、志渡澤 央和、植田 昌敬

【目的】当院では椎体に浸潤する非小細胞肺癌に対し、椎体部分切除を併用し、根治的手術を行っている。経験した3例について報告する。
【結果】平均年齢52歳、平均観察期間は58カ月であった。組織型は2例が腺癌、1例が扁平上皮癌で、いずれもT4N2M0、ステージ3であった。全例で術前化学放射線療法を施行し、呼吸器外科と合同で右上葉切除、リンパ節郭清、肋骨・椎体部分切除による腫瘍を一塊とした切除を行った。平均手術時間は631分、平均出血量は1142mlであった。全例で断端陰性であった。合併症は2例に認め、食道損傷、椎体骨折があった。2例で補助化学療法を行った。1例が術後6カ月で脳転移を認め、術後9カ月に肺炎で死亡した。死亡までに局所再発は認めなかった。他の2例は、最終観察時まで局所再発や転移を認めず生存し、術後平均生存期間は82.5カ月であった。
【考察】3 例中2例において、再発なく長期生存が得られており、治療の目的が達成できていた。本治療法は根治を期待できるという点で有意義なものであると考える。
26.「低侵襲脊椎手術を支えるキネマティックコントロール運動療法」

徳島大学大学院 地域運動器・スポーツ医学1)
徳島大学大学院 運動機能外科学2)

藤谷 順三(ふじたに じゅんぞう)1) 
西良 浩一2)

【はじめに】腰痛を発症したアスリートをできるだけ早期に競技復帰させるためには、内視鏡による低侵襲手術に加え、術後の運動療法が重要である。近年、キネマティックコントロール(運動制御:KC)に基づくピラティスが注目されている。今回、当院での取り組みを報告する。
【方法】腰椎椎間板ヘルニア患者を対象に、専用機器とマットによるピラティスを、術後約5日目から開始し2-4週間実施した。上下肢動作時でも代償動作を伴わずに腰椎生理的前弯を保持できるKC獲得を基本方針とした。
【代表症例】20代女性。プロバレーボール選手。左L4/5ヘルニアと終板輪損傷。肩関節屈曲および胸椎伸展の可動性低下が腰痛の原因と考え、徒手療法を併用しながら肩甲帯の安定性、肩関節の可動性、胸椎伸展の可動性にアプローチした。いずれの機能も向上し3か月後に競技復帰した。
【まとめ】ピラティスは術後早期に開始できるため、筋力など身体機能低下を最小限に留めKC向上が期待できるため、術後運動療法のゴールドスタンダードになり得るエクササイズである。
27.両側あるいは片側椎弓切除は予定硬膜切開術後の髄液漏に影響を与えるか?

琉球大学大学院医学研究科 整形外科学講座

金城 英雄(きんじょう ひでお)、島袋 孝尚、宮平 誉丸、藤本 泰毅、青木 佑介、 大城 裕理、當銘 保則、西田 康太郎

【はじめに】当科の予定硬膜切開後に生じる髄液漏について調査し成績を比較した。
【対象と方法】対象は75例(男性37例、女性38例)、平均年齢56.2歳、平均経過観察期間37.1ヵ月。疾患、椎弓切除法(両側もしくは片側)、硬膜処置方法、術後MRIを調査した。
【結果】疾患の内訳は脊髄腫瘍72例、その他3例であった。椎弓切除法は両側46例、片側29例。硬膜処置法では縫合54例、Vascular Closure Systemclips(VCS)21例であった。術後平均3ヵ月時の初回MRIで髄液漏を認めたのは全体で20例(26.6%)だった。椎弓切除に関して両側16例(34.7%)、片側4例(13.7%)で有意な差は認めなかった(NS)。硬膜処置に関しては縫合16例(29.6%)、VCS 4 例(19.0%)であった(NS)。特にVCSを使用した片側椎弓切除例では1例(6.2%)で、両側椎弓切除+VCSの3例(60%)と比べ髄液漏は有意に少なかった。(P=0.02)
【結語】髄液漏防止において死腔を減らすことは重要であり両側椎弓切除より低侵襲な片側椎弓切除とVCSを併用した方法は術後の髄液漏の低減になりうると考えられた。
28.腰椎手術直前のトラネキサム酸投与は術後出血量を減少させる

福岡東医療センター 整形外科1)
九州大学病院 整形外科2)

松下 昌史(まつした あきのぶ)1)、小早川 和 2)、飯田 圭一郎2)、幸 博和2)、川口 謙一2)、中島 康晴2)

【対象と方法】腰椎手術を行った116例を対象とした。TXAは術直前に1000mg投与した。年齢、身長、体重、抗凝固薬の内服の有無、術式(固定、非固定)、手術椎間数、手術時間、術中出血量、術翌日のドレーン出血量、術翌日のHb減少率(%)を検討項目とし、TXA投与群と非投与群で比較検討行った。
【結果】投与群は57例、非投与群は59例であった。腰椎手術全体において、術中出血量(ml)は両群間に有意差はなかった。術翌日の出血量(ml)は投与群187±134、非投与群308±210であり、TXA投与で有意に減少していた(p<0.05)。術式別の検討では、固定群、非固定群共に術中出血量は両群間に有意差はなかったが、術翌日の出血量TXA投与で有意に減少していた(p<0.05)。
【考察】腰椎手術直前のトラネキサム酸投与によって、術中出血量に有意差はなかったが、術後出血量が減少する結果となった。腰椎手術において、トラネキサム酸投与は術後出血量の抑制に有効である。
29.思春期特発性側弯症に対する脊椎後方固定術において術中低体温は入院期間を延長させる

岡山大学整形外科

篠原 健介(しのはら けんすけ)、三澤 治夫、魚谷 弘二、小田 孔明、鉄永 倫子、志渡澤 央和、植田 昌敬、鷹取 亮、尾﨑 敏文

【目的】全身麻酔手術において、術中低体温による悪影響は広く知られている。本研究の目的はAISに対する脊椎後方固定術(PSF)における術中低体温と入院期間の関連性を見出すことである。
【方法】2008/1月-2023/7月まで当院でPSFを施行されたAIS患者112例を対象とした。全例の手術項目、術中体温、EBL、術後合併症、入院期間を抽出した。核心体温36℃以下を低体温と定義し、全例を低体温群39例と正常体温群73例とに分類し比較検討した。
【結果】BMI、手術時間、固定椎間は両群間で有意差を認めなかったが入院期間は低体温群で有意に長かった(P<0.05)。術後合併症は創部感染が両群で1例ずつ発生したが発生率に有意差は認めなかった。
【考察】本研究よりAISに対するPSFにおいて術中低体温は術入院期間を延長させることが明らかとなった。術中の加温装置の使用のみならず、術前加温や室温の最適化、輸液や洗浄用生理食塩水の加温など術中低体温を予防する対策が必要である。
30.腰椎疾患の下肢痛の違いについて

唐津赤十字病院 整形外科

大野 瑛明(おおの てるあき)、池邉 結、山本 雅俊、前田 向陽、坂本 和也、北村 貴弘、仙波 英之、生田 光

【背景】下肢痛をきたす腰椎疾患には、主には腰部脊柱管狭窄症(神経根型)・椎間孔狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア(傍正中型)が挙げられる。上記疾患は、問診・身体所見・画像所見を踏まえて診断になるが、混在していることもあり、現在の主訴がどの病変なのかを絞り込むのに苦渋することがある。そこで、上記疾患にどのような症状の違いがあるか調べてみた。
【目的】下肢痛をきたす腰椎疾患の症状について調べること
【方法と対象】2018年10月~2023年10月に、下肢痛を主訴に当院を受診し、神経根ブロックもしくは神経根ブロック+単椎間の手術をうけ、症状が改善もしくは消失した症例を対象とした。上記疾患の診断は、身体所見・画像所見を元に行い、症状についてのアンケート(常に認める症状・症状増悪の姿勢・日内変動)とカルテの両方で、各疾患の症状の違いについて調べた。
【結果】57 例(男性:34例、女性:23例、平均年齢:65歳)を対象とし、疾患内訳は、腰部脊柱管狭窄症:10例、椎間孔狭窄症:19例、腰椎椎間板ヘルニア:28例であった。全疾患で、高確率で立位・歩行時に症状増悪をきたした。他疾患と比較して、腰部脊柱管狭窄症は、座位時の症状増悪や夜間痛の訴えは少なく、椎間孔狭窄症は、常時、痺れよりも痛みの自覚が強く、腰椎椎間板ヘルニアは、夕方よりも朝に症状が強い傾向にあった。
【結語】今回、下肢痛をきたす腰椎疾患の症状の違いについて調べた。本研究の腰椎疾患の症状の違いを念頭に置くことで、診断の一助になる可能性がある。
31.脊椎外科手術における超音波手術器械の適応と留意点

福岡みらい病院

柳澤 義和(やなぎさわ よしかず)

【はじめに】最近、超音波手術器械(以下、本器械)の改良によって骨切除に対しても良好な手術成績が散見される。今回本器械の適応や注意点について検討した。
【対象と方法】2018年4月以降、本器械を用いて手術した56症例について検討した。疾患の内訳は、頸椎症性神経根症/頸椎椎間板ヘルニア:20例、腰部脊柱管狭窄症:25例、腰椎椎間板ヘルニア:4例などであった。評価項目として術中合併症、術中モニタリング異常、術後後遺症を検討した。
【結果】術中合併症として硬膜神経損傷:5例、大量出血:2例、術野到達困難:2例であった。術中モニタリング異常:29例、術後合併症として認知症、麻痺の残存、骨破壊感染疑い、ふらつきを各1例ずつ認めた。このうち術中合併症とモニタリング異常が一致した症例は3例であった。
【考察】本器械はサージトームとは異なり非回転性の振動機能により安全に破砕することが可能である。頸椎椎間板ヘルニアや腰椎OLFなど神経組織周囲を安全に除圧するために本器械はより安全で有効な選択肢になり得ると考えられた。しかし一定時間接していると熱損傷を来してしまう。神経組織付近ではベンシーツなどを挟むなどの工夫が必要と考えられた。
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