8.陳旧性頸椎脱臼骨折の治療経験 市立宇和島病院 整形外科 下野 雄大(しもの かつひろ)、金澤 壮健、林 瑞昭、楠目 浩祐、岩本 昌也、松澤 良、藤田 勝 頸椎脱臼骨折は緊急的治療を要するが、臨床症状の乏しい例やレントゲンで読影のしにくい中下位頸椎の例では診断の遅れが生じることがある。今回、受傷から2ヵ月後に診断された症例を経験したので報告する。 症例は73歳女性で、2ヵ月前に山で草刈り中に3mほど転落し受傷した。近医を受診したが、明らかな異常は指摘されず経過観察となっていた。その後、頸部の後弯、ふらつき、嚥下障害、手のしびれが出現したため前医を受診し、レントゲンでC3/4の頸椎亜脱臼を認めたため紹介となった。精査の結果、陳旧性頸椎脱臼骨折と診断された。ハローベストでの牽引を行い、3週後に手術加療を行った。MEPモニタリング下に前方の癒着剥離と自家腸骨移植を行い、後方整復固定を行った。後方整復固定後、術中透視で前方移植骨の脱転を認めたため、前方プレート固定を追加した。術後は症状改善し、新たな麻痺の出現もなく経過良好である。 陳旧性の頸椎脱臼骨折は整復が困難であり、頸椎前方後方の同時手術が必要である。 |
9.中下位頚椎脱臼骨折に対する早期非観血的整復の有用性 Usefulness of Early closed reduction for Frac–tures-Dislocated of the Subaxial Cervical Spin 岡山労災病院 田岡 拓也(たおか たくや) 【目的】頚髄損傷は、受傷時に生じる脊髄の損傷とその後の脊髄圧迫・障害(二次損傷)に大別できる。脊髄の二次損傷は回避できる可能性があり、当院では可及的早期整復を施行している。本研究の目的は頚椎脱臼における早期非観血的整復の意義を明らかにすることである。 【方法】2010年7月から2021年9月の間に当院で加療を行った頚椎損傷302例を対象とした。これらの中でAllen-Ferguson分類のdistractive-flection(DF)、AIS D以上の麻痺、徒手整復施行を選択基準とした。選択された症例は、57例であった。受傷から整復までにかかった時間の中央値よりも早期に徒手整復を行った群(E群)と晩期に徒手整復を行った群(L群)に分けて、麻痺の改善度、脱臼部位、DFのstageについて検討した。 【結果】整復までの中央値は6時間で、E群には33例、L群には24例が割り付けられた。AISで1段階以上の改善を認めたのはE群18例(55%)、L群6例(25%)とE群の改善率が高かった。受傷時AIS AではE群4例 (44%)、L群3例(21%)で改善、AIS B-DではE群14例(58%)、L群3例(33%)で改善を認めどちらもE群で改善率が高かった。非観血的整復できなかった症例は6例(E群、1例;L群、5例)で、いずれもC6/7の脱臼であり速やかに観血的整復を施行した。 【考察】E群で神経学的予後は改善する傾向にあった。非観血的整復は安全な手技とされており、迅速に施行可能である。今回の研究でも約90%の症例で整復可能であり術後に神経学的増悪を認める症例もなかった。下位頚椎の脱臼では単純X線や透視での確認が困難で , 診断や高次機関への転送に時間がかかり、 整復までに時間を要する例も存在する。速やかな診断と非観血的整復が重要であるが非観血的整復困難例においては観血整復を施行すべき症例も存在する。 【結論】 中下位頚椎脱臼骨折に対しては、可及的早期に非観血的整復することが神経学的予後の改善に寄与する。 |
10.術前頚椎前弯例と後弯例の片開き式椎弓形成術の術後成績の比較 那覇市立病院 整形外科 勢理客 ひさし(せりきゃく ひさし)、比嘉 勝一郎、屋良 哲也 【対象と方法】2016年4月~2023年3月の期間に頚椎症性脊髄症に対して片開き式椎弓形成術を行った208例のうち、脳卒中後遺症例、抹消神経絞扼例、透析例、脊椎手術の既往例、認知症、C7椎体が確認できない例、データ不備例を除外した35例とした。平均年齢は67.1±10.7歳、男性25例、女性10例であった。C2-7角0°未満を後弯群、0°以上を前弯群とし、VAS(項部痛、胸部痛・しびれ、上肢痛・しびれ、下肢痛・しびれ)、JOACMEQ 各項目、頚椎パラメーターとしてO-C2角、O-C2可動域、C2-7角、C2-7可動域、C2-7SVA、C7slopeの術前および術後1年の値を両群間で比較した。 【結果】JOA scoreの改善率は後弯群(7例)の27.0±31.6は前弯群(28例)の59.4±27.7%に比較し、有意に低かつ(p=0.22)。JOACMEQ下肢機能の獲得量は後弯群(-9.0±5.8)が前弯群(17.7±21.5)に比較し有意に低かった(p=0.035)。その他項目に有意差を認めなった。頚椎パラメーターの変化量に関しては頚椎後弯群が2.6±7.1°の前弯を獲得したのに対し、頚椎前弯群は4.9±7.9°前弯を消失し有意差を認めた(p=0.032)。その他項目に変化を認めなった。 |
11.頸椎椎弓形成術における術前頸椎アライメントの影響の検討 九州中央病院 泉 貞有(いずみ ていゆう)、井口 明彦、濱田 貴広、今村 隆太、中村 公隆、蛯原 宗大、井上 隆広、井上 逸人、宮近 信至、有薗 剛 【背景】頸椎症性脊髄症に対する椎弓形成術では、後弯変形が高度な程、術後成績は不良とされているが、成績に影響を及ぼす因子の詳細な検討は少ない。 【方法】頸椎症性脊髄症に対し、椎弓形成術を施行した約30例を対象とした。XpとMRIを用いて、C2-C7角,center of gravity of the head-C7 sagittal vertical axis(C-SVA)、前方圧迫因子後縁からmodifi ed K-lineまでの最小距離(INTmin)等を術前・術後に計測した。臨床成績はJOAスコア等を使用した。 【結果】術前のC2-C7角が10°未満の症例では、JOAスコア改善率は43.1±24.0%であった。一方で、C2-C7角が10°以上の症例では改善率は7.4±34.5%であり、統計学的有意差が認められた(p<0.05)。 【考察】良好な術後成績を得るには、入念な術前評価が必要であると思われた。 |
12.C3椎弓に対する処置が頚椎椎弓形成術後の頚椎アライメントに及ぼす影響 高知大学 整形外科 田所 伸朗(たどころ のぶあき)、喜安 克仁、青山 直樹、溝渕 周平、池内 昌彦 【はじめに】C3-6またはC3-7の範囲で行う頚椎椎弓形成術(椎弓形成術)において、C3椎弓の処置は、切除(C3LN)と椎弓形成(C3LP)が広く用いられ、同等の手術成績が報告されている。C3LN群ではC2に付着する伸筋群を温存できC3LPに比べ術後のアライメント維持効果が期待される。 【対象と方法】当科で施行した椎弓形成術例についてC3LN群(17例:男性9例、女性8例、CSM14例、OPLL3例、平均年齢63歳)とC3LP群 (44例:男性24例、女性20例、CSM32例、OPLL12例、平均年齢69歳) の術前と術後1年時の頚椎アライメント、頚椎ROM(O-C2、C2-7)、術前後の頚髄症JOAスコアについて検討した。 【結果】頚椎アライメントはC2-7角とO-C2角がC3LN群で6.5+-9.8度→6.0+-14.3度、23.7+-9.6度→22.7+-9.7度に変化し、C3LP群で12.5+-13.1度→6.3+-10.9度、18.3+-8.9度→23.2+-10.5度に変化し、C2-7角、O-C2角の変化量はC3LP群で大きく、C2-7角は減少し、O-C2角は増大していた。(P<0.01 Mann-Whitney U検定)。ROM(C2-7、O-C2)とJOAスコア改善率は両群間に差を認めなかった。 【まとめ】頚椎椎弓形成術においてC3LNはC3LPにくらべアライメント維持に有効な可能性がある。 |
13.頸椎アライメントと頸髄症手術後の機能指標に関する後ろ向き研究 佐賀大学医学部附属病院 整形外科 平田 寛人(ひらた ひろと)、森本 忠嗣、塚本 正紹、吉原 智仁、戸田 雄、小林 孝巨、馬渡 正明 【目的】術前の頸椎アライメント(C2-7角)が頚椎手術後の機能指標に与える影響を調査することを目的とした。 【方法】2020年10月から2023年2月に当院で頸髄症に対して手術を受けた60例(椎弓形成術54例、後方除圧固定術4例、前方固定2例)を対象に後ろ向き研究を実施した。患者の術前C2-7角、年齢、罹病期間、握力、10 秒テスト回数、術前JOA Score、術前と術後1週間のSTEF(Simple Test for Evaluating Hand Function)、JOACMEQを測定し、C2-7角と各調査項目をSpearman順位相関係数により相関係数を分析した。 【結果】症例は男性39例、女性21例で平均年齢73歳であった。C2-7角と年齢(r=0.31、P=0.02)、JOACMEQの術前後の頸椎機能変化量(r=0.41、P=0.04)、術後1週間のVAS(腕や手の痺れ)(r=-0.37、P=0.046)に有意な相関を認めた。その他の項目に有意な相関を認めなかった。 【考察】頸椎術後の後弯変形が治療成績の不良因子であるという報告が多いが術前の頸椎アライメントと機能指標との関連を検討した研究は少ない。今回、術前C2-7角が大きい症例では JOACMEQの頚椎機能スコアの低下が小さく、術後の上肢の痺れが残りにくい傾向が示唆された。 |
14.頚椎症性脊髄症急性増悪症例における頚椎アライメントの検討 鹿児島大学 整形外科 眞田 雅人(さなだ まさと)、河村 一郎、冨永 博之、徳本 寛人、小倉 拓馬、黒島 知樹 谷口 昇 【はじめに】頚椎症性脊髄症(CSM)の一部に1か月以内に起立不能となるまで進行する急性増悪症例も存在するが、その危険因子は明らかではない。CSMの病態に静的・動的両因子が関与していることはわかっており、今回急性増悪(rp-CSM)と亜急性・慢性症例(c-CSM)の2群間を比較し、急性増悪症例における頚椎アライメントの関与を検討した。 【対象および方法】2015年1月から2021年12月の間にCSMの診断にて手術を施行した100例を対象とした。(rp-CSM:8 例、c-CSM:92 例)患者背景、頚椎単純X線動態画像を用いた各パラメータ(C2-6a,C2-4a,C4-6a)、可動域、MRI横断像を用いた頚髄圧迫率を評価した。 【結果】c-CSMと比較しrp-CSMは高齢で、中間・伸展位でのC2-6aとC4-6aの前弯で有意差を認め、MRIでの狭窄率も高度であった。可動域には有意差は認めなかった。 【考察】rp-CSMでは最狭窄部もやや下位に多い傾向にあり頚椎、特に下位頚椎での前弯が認められた。今回の結果より両因子が重なる下位頚椎のpincerの病態で急性増悪の発症因子の1つである可能性が示唆された。 【結語】下位頚椎の高度狭窄と前弯症例はrp-CSMの危険因子の可能性がある。 |