第97回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題Ⅰ)


1.C1レベルの頚髄症 頭頚部のアライメント変化が術後成績に影響した1例

岩国市医療センター医師会病院 整形外科

貴船 雅夫(きふね まさお)

【症例】85才男性 歩行困難 易転倒性で救急搬入。上肢運動障害なし。上肢反射亢進や病的反射なし。MRでC1レベルでの脊髄圧迫判明。(JOA 10/17 点)
【既往歴】大動脈弁閉鎖不全、心不全 発作性心房細動
【経過】本人・家族とも手術希望されず、最終的には施設入所。数か月後、上肢の痙性や便失禁などの症状が出現(JOA 6点)。1年半後、筋力はP以下、食事も全介助。手術希望にて座位保持装置で外来受診(JOA 0点)少しでも良くなる可能性があるのなら手術を希望。一方で人工呼吸器装着や気切は拒否。
【手術】C1後弓切除術を実施したが硬膜は膨らまず、脊髄モニタリングで右足の電位低下。
【術後】麻痺は悪化。MRでは椎弓切除部での血種が疑われ、再手術を提案したが希望されず。術後1週間時 ほぼ完全麻痺 呼吸状態も悪化、陽圧呼吸マスクとなった。術後のMRやCTでは術前に比し頭頚部で5‐9度伸展位に変化していたがこれが悪化の原因と思われた。侵襲を少なくするために除圧だけを実施したが、アライメント重視で除圧固定術を考慮するべきであった。
2.頚椎可動域制限を伴う椎体前方骨性隆起による嚥下障害の頭蓋頚椎矢状面アライメント評価
 
琉球大学大学院医学研究科 整形外科学講座

金城 英雄(きんじょう ひでお)、島袋 孝尚、山川 慶、藤本 泰毅、大城 裕理、當銘 保則、西田 康太郎
 
【はじめに】頚椎可動域制限を伴う椎体前方骨性隆起による嚥下障害に対し、頚椎前方骨棘切除術を経験したので報告する。
【対象と方法】対象は4例5手術(全例男性)、手術時年齢は平均59.8歳、観察期間は平均85.4ヵ月であった。術前と最終調査時の臨床症状、単純CTで骨棘の範囲と形態、最大骨棘の高位と厚さを評価し、頚椎単純X線で術前後の頭蓋頚椎アライメントを計測した。
【結果】術前の骨性隆起は、厚さ平均13.3mm、平均4椎体に連続して増生し、局所可動性は消失していた。術前の頚椎アライメントは各平均値でC2-7角 12.4°、O-C2角 20.4°、PIA 77.2°であった。全症例において術前S-lineは陰性であった。最終経過観察時に3例は嚥下障害消失し、1例は術後13年で骨性隆起の再増大と嚥下障害の残存を認めた。
【結語】頚椎可動域制限を伴う嚥下障害の評価においてS-lineも指標となりうると考えられた。再発も報告されており、長期経過観察が必要であると考えられる。
3.頚椎装具着用下において開口時の頚椎運動の調査
 
福岡大学医学部 整形外科学教室

真田 京一(さなだ きょういち)、田中 潤、塩川 晃章、柴田 達也、萩原 秀祐、山本 卓明
 
【目的】下顎のせ頚椎硬性装具使用時、下顎が固定されるため開口時の頭部の動きが顕著になる。本研究の目的は、頚椎装具着用下の開口動作時における、頚椎運動の変化を調査することである。
【方法】健常ボランティアを対象とした。①20歳以下、50歳以上、②頚椎の外傷の既往、変性疾患、先天異常がある者は除外した。頚椎硬性装具 ( オルソカラー ) 着用時と非着用時において、X線側面像(閉口位・2.0㎝開口位・4.0㎝開口位)の撮影を行った。透視装置を用いて正側面になるように確認したうえで撮影した。後頭骨 – 環椎(O/C1)からC5/6までの椎間角の動きを測定した。
【結果】男性9例女性6例、平均年齢33.2(25-47)歳であった。装具有群のO/C1角が4㎝開口位、2㎝開口位でともに有意に動きが強かった。C1/2以下は2㎝、4㎝開口位共に両群に有意差はなかった。
【考察】今回の研究で、開口時頚椎硬性装具を装着しているとO/C1の動きが強くなるという結果となった。食事など開口を必要とする動作時は装具を一時的に外す、または軟性装具に変更するなど工夫が必要と考える。
4.神経線維腫症Ⅰ型(NF-1)に伴う環軸椎関節脱臼に対して2度の固定術を要した1例
 
香川大学 整形外科
 
山本 修士(やまもと しゅうじ)、小松原 悟史、藤木 敬晃、石川 正和
 
 NF-1はdystrophic変化による脊柱変形をきたす。NF-1による環軸椎のdystrophic変化により脱臼をきたした症例を経験したので報告する。46歳女性。2週間前から歩行困難となり受診した。初診時、立位不能で、深部腱反射は左BTR以下亢進しており、筋力は上肢で右優位に両側MMT3程度の筋力低下があり、下肢筋力は正常であった。知覚は右上肢が重度の触覚鈍麻と位置覚鈍麻があった。尿閉であったが、肛門括約筋の収縮はあった。また嚥下困難もあった。右環椎後頭関節は亜脱臼しており、環軸関節は脱臼していた。歯突起は延髄に接していたが、後弓の一部欠損があり致死的な脊髄圧迫になっていなかった。頭蓋直達牽引後に観血的な整復と後頭骨から第2胸椎までの固定術を施行した。後頚部痛は軽快し、嚥下は問題なかったが、術後4週で後頭骨螺子が脱転し、再手術を要した。術後、上肢の軽度の筋力低下が残存したが、独歩可能となり嚥下も問題なく可能となった。固定アンカーの選択にはdystrophic変化を考慮する必要がある
5.急性期環軸椎回旋位固定に対する「おうちでゴロゴロ療法
 
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 整形外科
 
我謝 猛次(がじゃ たけつぐ)、安水 眞惟子、寺西 裕器、杉浦 由佳、渡嘉敷 卓也、金城 健
 
【はじめに】急性期環軸椎回旋位固定(急性期AARF)に対する治療として、安静、頚椎カラー固定、鎮痛薬投与などが一般的である。当院では2020年より、自宅で可能な限りの臥床安静、臥床での頚部可動域訓練、鎮痛薬投与、離床時のカラー固定を「おうちでゴロゴロ療法」と称して開始した。
【対象と方法】斜頚と頚部可動域制限、CTで環軸椎回旋変形またはX線像で上位頚椎の回旋を疑わせる所見があれば急性期AARFと診断し、11例を対象とした。年齢、発症誘因、Fielding分類と環軸椎回旋角度、X線像での頭蓋骨の側屈角度、診断までの期間、ゴロゴロの期間、再発の有無について検討した。
【結果】年齢は平均 5歳 5ヶ月(2-11歳)。誘因:不明 6例、炎症性疾患 3例、軽微な外傷 2例。Fielding分類:type1が 10例、type2が 1例で、type3、4なし。CTでの環軸椎回旋角度は平均16.7度(8例)、X線像での頭蓋骨の側屈角度は平均19度(3例)、診断までの期間:平均0.3(0-3)日、ゴロゴロの期間:平均2.9(2-4)日で、全例治癒し、再発はなかった。
【考察】AARFは早期診断が重要で、急性期に「おうちでゴロゴロ療法」を行えば、症状が遷延し、入院となる症例は減ると考えた。ただ症例数が少ないので、今後の検討が必要である。
6.小児後頭軸椎固定術後のアライメント変化に関して
 
宮崎大学 整形外科
 
比嘉 聖(ひが きよし)、濱中 秀昭、黒木 修司、永井 琢哉、日高 三貴、高橋 巧、帖佐 悦男
 
【目的】歯突起骨や環軸椎亜脱臼は稀な疾患だが小児でも固定が必要となるケースがある。当院で施行した小児後頭軸椎固定後のアライメント変化を調査することである
【対象・調査項目】2008年~2016年までに施行した後頭軸椎固定の5例、平均年齢8歳6ヶ月。調査項目は術前後∠C1-2、∠C2-7、椎体高成長率、椎体前後径成長率、脊柱管成長率
【結果】術前∠C1-2は後弯(平均12.5°)で∠C2-7は過前弯(平均43.2°)であった。術直後∠C1-2は矯正され平均6.5°の後弯、最終観察時には平均2.5°であり後弯が矯正されていた。∠C2-7も最終的に過前弯が矯正されていた
【考察】小児固定椎体では長軸方向への成長は抑制されるとの報告もあるが当院の症例では固定椎体も長軸方向への成長を認め∠C1-2が矯正されていた。後方は固定により長軸方向への成長が抑制されるが椎体は長軸方向へ成長するため∠C1-2が前弯化する可能性がある
【結語】小児後頭軸椎固定術では解剖学的な整復が好ましいが整復が十分でない場合でも成長とともにアライメントが矯正される可能性がある
7.後頭頚椎固定術後の頚髄症に対して通常の挿管が困難であった1例
 
鳥取大学 整形外科
 
藤原 聖史(ふじわら さとし)、谷島 伸二、三原 徳満、武田 知加子、吉田 匡希、永島 英樹

【はじめに】後頭頚椎術後の脊髄症に対する手術において、通常の挿管が困難であった1例を経験したため報告する。
【症例】57歳女性、20代でRAを発症し、X-20年に他院で環軸椎亜脱臼に対して、O-C3後方固定を受けていた。X年、誘因なく巧緻運動障害と歩行障害を自覚し前医を受診。O-C2角-1°と軽度屈曲位での固定後で、C4/5、5/6高位での脊髄障害を認め、後方椎弓切除と固定の延長を予定された。麻酔導入において、喉頭蓋の確認ができず挿管困難のため手術は中止となり、当科へ紹介、転院となった。麻酔科と協議し、転院後1週(初回手術より2週)に手術を予定したが、麻酔導入での喉頭展開に難渋、ファイバー挿管も困難であり再度中止となった。耳鼻科、麻酔科と協議し気管切開も考慮した上で、転院後1か月で最終的には意識下経鼻挿管で手術を完遂した。
【考察】後頭頚椎術後の頚椎アライメントと前医での麻酔導入手技の影響による後咽頭間隙の腫脹が挿管困難要因と考えられた。後頭頚椎固定術後の再手術症例に対しては、事前に麻酔科、耳鼻科と十分な協議が望まれる。
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