第96回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅲ)


19.当院における後期高齢者の脊椎・脊髄損傷の現状
 
徳島県鳴門病院 整形外科・脊椎脊髄センター
 
千川 隆志(ちかわ たかし)、橋本 采佳、松村 肇彦、平野 哲也、和田 一馬、横尾 由紀、日比野 直仁、邉見 達彦

【背景】脊椎・脊髄損傷に対して虚血や炎症による二次損傷を回避すべく、可及的早期に手術を行っている。
【目的】当院で治療した脊椎・脊髄損傷の後期高齢者(75歳以上)症例を調査した。
【対象】2019年から2021年の期間に、入院し手術を行った75歳以上の脊椎・脊髄損傷患者21名(A群)を対象とした。
【方法】受傷時年齢、傷病名、受傷機転、受傷から手術までの日数、入院から手術までの日数、受傷高位、手術レベル、経過観察期間、手術方法、術前後のFrankel分類、四肢MMT、ADLを調査した。
【結果】受傷時年齢は、平均83.2歳、男性10例、女性11例、受傷から手術までの日数は8.7日、入院から手術までの日数は4.8日、受傷高位は頚椎10例、胸椎9例、腰椎2例、手術方法は固定術19例、椎弓形成術2例であった。Frankel分類は術前B3例、C12例、E3例で、術後C1例、D13例、E7例と全て同じか1ランク以上の改善を示した。
【結語】後期高齢者に対する早期手術の術後経過で、Frankel分類や四肢MMTにおいて現状維持もしくは1ランク以上の改善を示した。
20.高度救命センターにおける過去 10 年の脊損治療の変遷
 
久留米大学医学部整形外科学講座
 
森戸 伸治(もりと しんじ)、佐藤 公昭、山田 圭、横須賀 公章、後藤 雅史、松尾 篤志、不動 拓眞、平岡 弘二
 
【背景】本邦は世界有数の超高齢化国であり、それに伴い高齢者の脊髄損傷患者が年々増加している。健康寿命も上昇しており、高齢者でも本人・家族の脊髄損傷後の機能回復への期待が高くなっていることから積極的手術を望まれる患者及びそのご家族も少なくない。
【目的】今回我々は、過去10年間に当院高度救命センターへ搬送された75歳以上の脊髄損傷患者について、手術介入の割合と入院期間の変化について調査した。また、所領し得た範囲で麻痺重症度(AISAImpairment Scale)の経過を調査した。
【結果】対象患者は60名で、平均年齢79±9歳、男性24例、女性36例であった。2012年~2017年の手術介入は約30%、2018年~2021年の手術介入は約60%であった。
【考察】2018年以降、それ以前と比較して手術介入割合が高いが、入院期間に差は認めなかった。運動麻痺重症度は、完全麻痺(A,B)から不全麻痺(C以上)へ以降した割合は、手術介入群と手術非介入群での有意差は認めなかった。
【結語】当院での脊髄損傷手術例は増加傾向にあった。手術介入自体が予後改善因子となるかは未だ不明である。
21.後期高齢者の脊椎損傷の検討
 
鳥取県立中央病院 整形外科
 
村田 雅明(むらた まさあき)、三原 徳満、谷島 伸二、永島 英樹
 
【はじめに】平均寿命の延長とともに基礎疾患のある高齢者、フレイルやサルコペニアなどの脆弱な高齢者も増加している。それにともなって脊椎外傷の病態も変化していると思われる。今回我々は手術を行った後期高齢者の脊椎骨折症例を検討した。
【対象】2019年から2021年の3年間で75歳以上の脊椎手術を145例に施行していたが、そのうち脊椎骨折は25例であった。25例の内訳は、破裂骨折9例、DISH関連骨折8例、偽関節5例、仙骨脆弱性骨折2例、脱臼骨折1例で、部位は胸腰椎移行部が12例、腰椎5例、胸椎4例、頚椎2例、仙骨2例であった。
【方法】上記症例について手術方法、受傷機転、手術までの経過などについて検討を加えたので報告する。
22.後期高齢者の脊椎損傷における術前後合併症の検討
 
松江市立病院 整形外科 
 
奥野 誠之(おくの まさゆき)、楠城 誉朗、石田 孝次、青木 利暁、近藤 康光
 
【目的】後期高齢者の脊椎損傷における術前後合併症について、若年者におけるそれらと比較すること。
【方法】対象は2018年から2022年に当院で脊椎固定術手術を行った脊椎損傷の20例。それらを年代順に20歳から64歳までの若年者9例、65歳から74歳までの高齢者5例、75歳以上の後期高齢者6例に分けて術前後の合併症について検討した。
【結果】若年群は頚椎1例、胸腰椎7例であった。高齢者群で頸椎1例、胸腰椎4例、後期高齢者群で頸椎4例、胸腰椎2例で頸椎症例が多い傾向にあった。術前合併症は若年者で高血圧などの循環器疾患、高度肥満などであった。高齢者、後期高齢者での術前合併症で循環器系合併症、ASなどであった。術後合併症は若年者で下肢深部静脈血栓症が1例であった。
【考察】後期高齢者では胸椎の化膿性脊椎炎1例、原因不明の突然死1名であった。後期高齢者に対しては手術適応の際には十分に術前検査を行い、手術も低侵襲手術に心がけているが、術後の合併症は多くまた重篤なものが多くなる傾向にあるため注意を要する。
23.周術期低用量アスピリン内服継続が内視鏡下椎弓切除術における周術期合併症および臨床成績に与える影響
 
九州労災病院 整形外科
 
樽角 清志(たるかど きよし)、上田 修平、吉本 昌人、上妻 隆太郎、加治 浩三、今村 寿宏、上森 知彦、三浦 裕正
 
【目的】内視鏡下椎弓切除術(MEL)における低用量アスピリン(LDA)内服継続の安全性とLDA内服継続が臨床成績に与える影響を評価すること。
【対象と方法】2016年4月から2022年3月までにMELを行い条件を満たした88名を対象とした。対象患者を抗凝固治療を受けていない患者(A群)、周術期に抗凝固薬・抗血小板薬を中止した患者(B群)、周術期を通してLDAを内服した患者(C群)の3群に分け、手術時間、術中出血量、術前後のヘモグロビン・血小板の差、周術期合併症(術後血腫、心血管・脳血管障害の有無)につき調査した。術後6ヶ月以上経過観察可能であった患者は EQ-5D、ODI、JOABPEQについても評価した。
【結果】周術期各項目、周術期合併症、臨床成績各項目に関して3群間に有意差を認めなかった。A群の1例に対して血腫除去術を行なった。
【結語】MELにおけるLDAの周術期内服継続は周術期合併症、臨床成績共に影響を与えないため継続可能と考えられる。
24.75歳以上の後期高齢者における銀含有ハイドロキシアパタイト(Ag-HA)コーティングケージの使用経験
 
佐賀大学医学部 整形外科
 
塚本 正紹(つかもと まさつぐ)、森本 忠嗣、小林 孝巨、平田 寛人、吉原 智仁、馬渡 正明
 
【はじめに】当科では抗菌性と骨伝導性を期待した銀含有ハイドロキシアパタイトコーティングケージ(Ag-HAケージ)を開発し上市した。一方、後期高齢者の腰椎後方固定術では骨癒合率低下や術後合併症増加が危惧される。今回、同製品の短期成績を年代別に検討した。
【対象と方法】対象は1-2椎間の腰椎後方椎体間固定術にAg-HAケージを使用した67例79椎間(男22例:女45例、平均年齢71歳)で、評価項目は術後6か月での椎体終板嚢胞(VECF)、ケージ沈下(CS)、椎弓根スクリューゆるみ(PSL)、椎体間骨癒合、手術関連合併症とした。75歳以上(E群:35椎間)と60-74歳(M群:35椎間)、59歳以下(Y群:9椎間)で比較検討した。
【結果】E群/M群/Y群で骨癒合率は82%/79%/88%、VECFは32%/39%/50%、CSは4%/6%/0%、PSLは4%/3%/0%でそれぞれ有意差はなかった。術後深部感染症例や銀による有害事象発生例はなかった。
【考察】Ag-HAケージは後期高齢者でも若年者と同等の骨伝導性が期待できることが示唆された。
25.脊椎long fusion後の固定上位端骨折が原因で脊髄損傷となった一例
 
大分整形外科病院
 
藤村 省太(ふじむら しょうた)、大田 秀樹、木田 吉城、井口 洋平、巽 政人、田原 健一、三尾 亮太、吉村 陽貴、竹光 義治
 
【目的】今回、脊椎long fusion後、軽微な転倒を繰り返し固定上位端骨折が原因で脊髄損傷になった一例を経験したので報告する。
【症例】89歳女性。他医にてL3/4,L4/5部分椎弓切除+L4/5 PS施行。術後の改善なく、2020年1月L3/4,4/5 TLIF、L3-S1 PS施行。経過は良好であったが、2年後、右下肢痛が出現した。L2/3に椎間板ヘルニアを認め、隣接椎間障害と診断した。2022年3月、L2/3TLIF、Th10-SのPSを施行した。術後症状は改善したが、入院中に転倒し、Th10椎体骨折を認めたが症状なく退院。退院後に再度転倒し、右優位の下肢麻痺出現。T10レベルでの脊髄損傷と診断した。Th9-11の部分椎弓切除術、Th5-12の連結を施行し、現在リハビリテーション中であるが、歩行は改善している。
【考察】Long fusion後のPJKが問題となっているが、時には脊髄損傷となることもあり、固定範囲の選択や後療法を再検討する必要がある。
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