第96回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅱ)


11.びまん性特発性骨増殖症が胸椎、腰椎椎体骨折に対する balloon kyphoplasty の治療成績に与える影響

福岡大学医学部整形外科学教室1)、大分整形外科病院2)
 
真田 京一(さなだ きょういち)1)、大田 秀樹2)、木田 吉城2)、田中 潤1)、塩川 晃章1)、柴田 達也1)、萩原 秀祐1)、山本 卓明1)

 
【目的】びまん性特発性骨増殖症(DISH)を伴う胸椎、腰椎椎体骨折(VFs)に対しては一般に固定術が選択されるが、高齢者が多いため低侵襲治療が望ましい。BKPは椎体骨折に対し施行されている低侵襲手術であるが、DISHを伴うVFsに対する安全性、有効性を報告した研究は少ない。DISHを伴うVFsに対するBKPの成績を報告する。
【方法】VFsに対しBKPを行った 73例を対象とした。DISHを伴う(D)群と伴わない(ND)群に分け、腰背部痛、隣接椎体骨折、再手術の有無、局所後弯角について調査した。
【結果】D群22例、ND群51例であった。D群は全て癒合部の遠位端またはそれ以遠の椎体骨折だった。腰背部痛は両群でともに有意差なく改善した。隣接骨折の有無、再手術の有無も両群ともに有意差がなかった。D群で有意に術後の局所後弯が進行した。
【考察】DISH癒合部の下位端や隣接椎体は中央部に比較すると可動部であり、骨折しても比較的安定していると考える。後方固定の術後合併症率を考慮すると、BKPが選択肢となる可能性がある。
12.びまん性特発性骨増殖症(DISH)を併発した骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)の治療戦略
 
福岡輝栄会病院
 
密川 守(みつかわ まもる)、不動 拓眞、森戸 伸治、松尾 篤志、横須賀 公章、山田 圭、佐藤 公昭、平岡 弘二
 
【目的】DISH併発のOVFは後方固定術の適応とする報告と、経皮的椎体形成術(以下形成術)単独で対応できるとの報告がある。今回は我々の行った手術症例を検討したので報告する。
【対象】DISH併発の25例。平均年齢81歳、DISH下方骨折(下端+下端隣接)19例、DISH中間部骨折6例。DISH下方骨折のうち椎体破壊が軽微な17例は形成術単独(以下単独群)で、それ以外2例と中間部骨折6例は形成術に後方固定術(経皮的)を併用した(以下併用群)。
【結果】手術待機時間は、単独群で受傷後1.8週、併用群で16.5週。DISH併発例の続発性骨折の発症は高率とされるが、今回は単独群で11.8%(2/17)、併用群で12.5%(1/8)で、我々の非DISH群での発症率10.7%(8/75)と遜色無い結果であった。
【考察】形成術単独で対応する場合、ポイントは椎体破壊が軽微な受傷早期に手術を行うことと考え、DISH下方骨折と判明した全例に早期手術を適応した。一方、遷延治癒や中間部骨折の場合は固定術併用とした。
13.後期高齢者の強直性脊椎骨増殖症に生じた胸腰椎部の脊椎損傷に対する手術治療
 
山陰労災病院 整形外科
 
土海 敏幸(どかい としゆき)、谷田 敦
 
【はじめに】後期高齢者の強直性脊椎骨増殖症(DISH)に生じた胸腰椎部の脊椎損傷に対する手術治療について検討した。
【方法】2019年4月~2022年8月の間に当科で手術を行ったDISHに伴う胸腰椎部の脊椎損傷は17例だった。2019年4月~9月までは経皮的に(PPS群)、2019年10月以降は観血的に(open群)、原則3 above- 3 belowでの固定を行った。手術時間、出血量、Hidden blood loss、輸血の有無、被爆時間について検討した。
【結果】Open 群(11例)はPPS群(6 例)に比較して、被爆時間は有意に短かった。Open群はPPS群と比較して術中出血量、Hidden blood loss、Hb変化量に有意差を認めなかった。輸血はOpen群の2例のみに行った。
【結語】DISHの脊椎損傷では骨移植の必要がなくPPSの良い適応である。ナビゲーションの無い環境において被爆量を鑑みると、出血の制御さえできればOpenでもよいと考える。
14.PES 法を用いて固定を行ったびまん性特発性骨増殖症を伴う骨粗鬆症性胸椎骨折の1例
 
琉球大学 整形外科
 
島袋 孝尚(しまぶくろ たかなお)、金城 英雄、山川 慶、藤本 泰毅、大城 裕理、當銘 保則、西田 康太郎
 
びまん性特発性骨増殖症(DISH)を伴う骨粗鬆症性椎体骨折は、術式や固定範囲選択に難渋することが多い。今回、DISHを伴う骨粗鬆症性胸椎骨折に対してpenetrating endplate screw(PES)法を用いて固定した1例を経験したので報告する。
【症例】81歳、女性、6ヵ月前に自宅で転倒し受傷した。近医を受診し、T12椎体骨折と診断されコルセット装着、保存治療を受けていた。3ヵ月前より両下肢筋力の低下が出現し、当科へ紹介された。背部痛、右優位の両下肢筋力低下、および膀胱直腸障害(頻尿)を認めた。CTでT3~T10にDISHによる骨性架橋、T11椎体骨折、T12破裂骨折を認め、DISHを伴う胸椎椎体骨折後遅発性麻痺と診断した。T11、T12にBKPを用いた椎体形成術、3aboveに経筋膜アプローチPES法、3 belowにオープン法によるPS、hookでT8 ~ L3後方固定を行った。術後、背部痛・両下肢麻痺は改善し、杖歩行が可能となった。術後2年4 ヵ月、合併症なく経過良好である。
15.後期高齢者に生じた強直性脊椎炎を背景とした第7頚椎骨折の1例
 
島根大学 整形外科 
 
真子 卓也(まなこ たくや)、河野 通快、永野 聖、内尾 祐司
 
【症例】85歳男性。20代から強直性脊椎炎の既往あり。テーブルから落下して受傷し、左肩甲部痛と左手指運動制限が生じ当院へ救急搬送された。来院時、左環指・小指の伸展筋力がMMT2に低下していた。単純X線像およびCTでは頚椎の高度前弯と強直性変化を伴っており、第7頚椎椎体・椎弓骨折と左C7/T1椎間孔狭窄を認めた。強直性脊椎炎を背景とした第7頚椎骨折、左第8頚神経根障害と診断し、後方固定術(C2-T2、腸骨移植)を施行した。アンカーとしてC2・C3両側椎弓スクリュー、C4外側塊スクリュー、T1・T2椎弓根スクリュー(+T1両側椎弓スクリュー)を採用した。術後から左肩甲部痛が改善し、リハビリテーション病院を経由して術後3か月で自宅退院した。術後8か月で骨癒合が得られ、左手指麻痺も回復した。
【考察】強直を伴う脊椎骨折では原則として手術治療が必要となるが、頚椎の高度前弯例では頭側深部の展開が制限されるため、通常のスクリュー挿入が困難となる。十分な椎弓の厚さがある症例では上位頚椎アンカーとして両側椎弓スクリューが有用と考える。
16.DISHを合併した第10胸椎破裂骨折で両下肢麻痺となった症例の治療経験

いまきいれ総合病院
 
里中 洋介(さとなか ようすけ)、宮口 文宏、川畑 直也
 
DISHや骨粗鬆症では、椎弓根スクリュー(以下PS)が骨皮質以外の骨髄内ではほとんど効かない症例が散見される。
今回我々は、DISH・骨粗鬆症合併の骨折に対し罹患椎体より高位の胸椎に対して頭側から尾側へ元来の椎弓根の方向へPPSを挿入し、さらに下位椎体上縁を貫く新しいPPS挿入法(以下TPSS)を考案し、97歳女性の第10胸椎骨折による両下肢麻痺を治療したので報告する。
胸椎で下向き(TPPS)に、腰椎で上向き(DEPS法または PES法)にPPSが挿入されると、PPSのスクリュー先端はすべて罹患椎体の方向へ向かうため隣接椎間障害を引き起こしにくく、バックアウトしにくい。TPPSでは、胸椎椎弓根径が細く2mm以下でもPPS挿入可能である。椎弓根が細いと、PPSが横突起を貫き、次に椎体側壁、椎体の下縁、下位椎体の上縁を貫き、結果として4骨皮質を貫き強度が上がる。陳旧性の椎体骨折で椎体が圧潰していても後壁が残存していれば、TPPSで PPSの強固な固定が得られる。
17.遅発性麻痺を免れたびまん性特発性骨増殖症を伴う椎体骨折の一例
 
益田赤十字病院、鳥取大学整形外科
 
小川 慎也(おがわ しんや)、大塚 哲也、上村 篤史、米井 徹、永島 英樹
 
症例は85歳女性。3年前に他院で右人工股関節全置換術の歴があった。自宅内で転倒し右大腿部を強打した。以降、疼痛のため体動困難となり当院へ救急搬送となった。診察時、疼痛の訴えは右大腿部に集約しており変形も伴っていた。レントゲン写真では右人工股関節ステムの遠位で横骨折がみられた。第3病日、ステム周囲骨折に対してプレートを用いた観血的整復固定術を仰臥位で実施した。術後、右大腿部痛は軽快したが腰痛の訴えが徐々に出現し、離床訓練が実施できなかった。第7病日に腰椎レントゲン撮影を行ったところ、びまん性特発性骨増殖症を伴った第12胸椎骨折を認め、第1腰椎以下の脊柱は前方に大きく転位していた。第1腰椎は両側の椎弓基部が骨折しており、椎弓は後方に残っていたため、脊髄損傷は免れていた。第8病日、第9胸椎から第4腰椎の範囲で脊椎後方固定術を行ったところ腰痛の改善が得られ、現在は歩行器歩行も問題なく実施可能となっている。
18.DISH下端のOVFに対しBKPに1椎間PPSを併用した3例
 
大分整形外科病院
 
田原 健一(たはら けんいち)、大田 秀樹、木田 吉城、井口 洋平、吉村 陽貴、三尾 亮太、藤村 省太、巽 政人、竹光 義治
 
【背景】DISH下端に発生した骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)に対するBKPは成績不良に終わることが多い。骨折椎体への力学的負荷が大きく術後の安定性の獲得は十分ではない可能性がある。今回BKPに加え、1椎間PPSによる後方固定を追加した3例を経験したので報告する。
【症例】転倒及び軽微な外傷により腰痛が出現した3例(女性1例、男性2例、平均年齢79.3歳)。下肢症状は認めなかった。3例共にL1破裂骨折もしくはOVF偽関節を認め、1例は両椎弓根骨折も認めた。全て中下位胸椎からT12までのDISHを合併していた。L1 BKP+T12/L1 PPSを実施した。術後腰痛は消失、術後3ケ月での現在screwbackoutは認めていない。
【考察】DISH下位端のOVFは不安定性が高度でありBKP単独ではfailure を起こす可能性があるため、implantによる多椎間固定を追加で検討することが多い。今回は骨折椎体にBKPを行い、セメントを避けるようにpedicle screwを挿入することで1椎間のshort fusionが可能となり、安定化が得られた。mobile segmentが温存され、Longfusionを避けることが出来たという観点から有用な方法と考える。
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