第95回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅳ)


18.神経障害が出現した高齢転移性脊椎腫瘍患者の手術成績

鳥取大学 整形外科

三原 徳満(みはら とくみつ)、谷島 伸二、武田 知加子、吉田 匡希、藤原 聖史、永島 英樹

【背景】転移性脊椎腫瘍は神経障害が出現すると手術療法が必要になる場合があるが、高齢化社会に伴い高齢転移性脊椎腫瘍患者に手術を行う頻度も増えている。
【目的】神経障害が出現した高齢脊椎腫瘍患者の手術成績について検討すること。
【対象・方法】2009年から2020年に手術治療を行った転移性脊椎腫瘍患者53例中、神経障害の出現により緊急手術を行い、当院で死亡が確認できた18例を65歳未満:A群(9例)、65歳以上:B群(9例)に分けて検討した。調査項目は、年齢、性別、徳橋スコア、新片桐スコア、術後生存期間とした。
【結果】年齢の平均はA群54.2歳(39-64歳)、B群72.0歳(66-82歳)でB群が有意に高かった。徳橋スコアの平均はA群6.4(1-12)、B群 6.1(1-10)、新片桐スコアの平均はA群5.5(2-9)、B群5.5(2-8)と二群間に有意差を認めなかった。術後生存期間の平均はA群12.4か月(2-43か月)、B群4.0か月(1-17 か月)とB群が有意に低かった。
【まとめ】予後予測で同程度の予後が予測された場合でも、高齢者は若年者と比較して術後生存期間が短い可能性が示唆された。
19.椎体破壊が高度な高齢者頚椎化膿性脊椎炎に対する治療戦略

岡山旭東病院 整形外科1)
高知医療センター 整形外科2)

時岡 孝光(ときおか たかみつ)1)、小松原 将2)

【目的】高齢化に伴い椎体破壊が高度な頚椎化膿性脊椎炎が増加し、その治療戦略を検討した。
【対象】2005年から2020年に観血的治療を行った頚椎化膿性脊椎炎は15例で、年齢は52-92歳(平均68.3歳)であった。臨床像は椎間板炎限局型が2例、椎体炎13例、12例で硬膜外膿瘍を伴っていた。起炎菌の同定は10例(66.7%)で、菌株はMSSAが8例、serratiaとE.coliが各1例であった。
【結果】手術方法は椎間板炎型の2例は椎間板掻爬とドレナージ、椎体炎型で硬膜外膿瘍による麻痺を伴ったものは4例で椎弓切除+ドレナージ、1例で前方掻爬+ドレナージを行った。5例中2例は後方固定術を追加した。そのほかの椎体破壊が高度な例では1期的に後方instrumentation手術を行なった。CRP陰性化までの期間は固定群が平均73日、非固定群が平均128日であった。
20.治療に難渋した化膿性頸椎炎の一例

一信会 大分整形外科病院

吉村 陽貴(よしむら あきたか)、大田 秀樹、木田 吉城、井口 洋平、巽 政人、田原 健一、柴田 達也、三尾 亮太、木田 浩隆、竹光 義治

【目的】化膿性頸椎炎の患者に手術療法を行ったが、感染再燃、頚椎後弯化、誤嚥性肺炎にて治療に難渋した症例を経験した。
【症例】70歳、男性。頸部痛で発症し、その後数日で尿閉、歩行不能となる。MRIはC5/6を中心に椎体前後に膿瘍を認め、脊髄の著明な圧迫を認めた。発症後9日目にC5/6の硬膜外膿瘍を排膿し腸骨移植を施行。術後麻痺は改善し歩行可能となり、CRP正常化で抗菌剤を中止した。その後CTにて移植骨の骨癒合不良を認め、頸椎は後弯化し、MRIにてC6/7にも椎体炎が波及し感染の再燃を認めた。術前から高度な歯周病があり、未治療であったため歯科にて治療後、C5/6、C6/7後方固定を施行した。術後、喀痰多く胸部CT撮像中にCPAとなり、蘇生は出来たが誤嚥性肺炎となった。肺炎は治癒したが、嚥下能力低下による誤嚥の危惧があるため嚥下リハを継続中である。
【考察】化膿性頸椎炎の前方固定術はインプラントを使用しづらく、高齢者においては移植母床が脆弱で、偽関節や後弯変形の危惧があり、後方固定も追加するべきである。歯周病など感染源の治療も大切である。
21.高齢者骨粗鬆症性椎体骨折術後の皮膚トラブル

高知大学医学部 整形外科

喜安 克仁(きやす かつひと)、田所 伸朗、青山 直樹、溝渕 周平、池内 昌彦

【はじめに】高齢者骨粗鬆症性椎体骨折の症例の中に傍脊柱筋が痩せていたり、皮膚や皮下組織が痩せていたりする症例を散見する。今回術後に椎弓根スクリューによる皮膚トラブルが起こった症例を経験したので報告する。
【症例 1】80代女性。第1腰椎椎体骨折後偽関節による両下垂足で紹介となった。手術は椎体形成術と第12胸椎から第2腰椎の後方固定術を施行した。術後筋力も改善し歩行が可能となっていたが、術後3か月経過時にスクリューヘッド部での皮膚潰瘍と深部感染が発症した。スクリューを抜去し感染は沈静化した。
【症例2】80代男性。DISH内第1腰椎椎体骨折による疼痛で座位ができなくなり紹介となった。手術は第11胸椎から第3腰椎までの後方固定術を施行した。DISH後弯に加えて傍脊柱筋が痩せていたため術後スクリューを皮下に触れていた。術後9か月でスクリューヘッド部での皮膚潰瘍と深部感染が発症したため抜去した。
【考察】高齢者の中に術後スクリューを触れる症例があり、今後皮膚トラブルの予防や対策を検討する必要がある。
22.後頭神経痛によりC2神経根切離に至った環軸関節変形性関節症の1例

熊本整形外科病院

田中 一広(たなか かずひろ)、米嵩 理、平川 敬

 急峻な後頭神経痛によりC2神経根切離に到った環軸関節変形性関節症(atlantoaxial osteoarthritis(以下AAOA))の1例を経験したのでこれを報告する。
【症例】57歳、女性
【主訴】左後頚部痛
【現病歴】1年ほど前より左頸部痛を自覚。2週間ほど前より誘因なく症状が増悪したため当院受診。
【既往歴】関節リウマチ、金属アレルギー
【身体所見】Jackson test(+), Spurling test(+)、四肢深部腱反射減弱(-)・亢進(-)
【画像所見】頚椎単純X 線、CT、MRI:骨棘増生に伴うAAOAによる左C2神経根の圧排を認めた。
【経過】VISTA装具固定し保存的加療も疼痛が強く仰臥位になれず坐位にて就眠する様になり、手術施行(金属アレルギーがあり固定術は行わずに後方徐圧、骨棘切除術施行)した。術中確認した左C2神経根は腫脹、骨棘による圧排を認めた。疼痛は一旦改善も術後3ヵ月にて再燃し左C2神経根切離術施行した。現在切離術後1年9月にて疼痛認めず経過良好である。
23.Juxta facet cystと鑑別が困難であった馬尾ヘルニアの1例

熊本整形外科病院 

米嵩 理(よねたけ ただし)、田中 一広、平川 敬

【症例】65歳男性、当院受診の1年半前に宴会の後、夜間睡眠中にトイレに起きようとした際に右睾丸付近から右肛門にかけての激痛があり、総合病院の救急外来を受診。精査行うも原因がはっきりせず、肛門外科病院も含め複数の病院を受診したものの診断がつかなかった。右睾丸付近の痛みは徐々に軽減するも右臀部痛が遺残し、当院を受診。理学所見上、右SLRT陽性、筋力低下、深部兼反射の異常は認めず、腰椎MRI上、L4/5右椎間関節付近の嚢胞性病変を認め、Juxta facet cystに伴う右L5神経根症の診断で手術を行った。術中、瘢痕組織が強く硬膜に癒着しており、原因不明の髄液漏を認めた。瘢痕の一部を剥離し、切離したところ、切離面が馬尾断端であることが確認できた。脱出した馬尾が瘢痕化し、硬膜に癒着していたものと思われた。脱出口を確認。馬尾を可及的に還納して硬膜を縫合、フィブリン糊を塗布して閉創した。術後右臀部痛は完全に消失し、神経欠落症状は認めなかった。
24.頚椎中心の後方固定のみで症状軽快した首下がり症候群の4例

白石共立病院 脳神経脊髄外科1)
国際医療福祉大学 医学部(成田校)2)

本田 英一郎(ほんだ えいいちろう)1)、田中 達也2)、劉 軒1)
  
【はじめに】首下がり症候群は頚椎の限局した病変を伴う場合と、胸腰椎の後弯を伴う場合に分類され、今回頚椎中心の限局した後方固定にて症状軽快した4例を報告する。
【症例】4例全て女性であり、年齢は69-91歳と高齢者であった。首下がりではあったが、頚椎の稼働性は良好で、頚椎SVAは35以上で、頚椎前屈で明瞭な頚椎後弯を呈した。C7 plumb lineと仙骨後端とのSVAは殆ど0近傍にあったと考えられた。MRIでは2例で高度な後頚部筋の萎縮が認められた。
【結果】後頭骨-第2胸椎(1例)、軸椎椎弓根-第1胸椎(3例)の固定にて全例(全身のアライメント)は良好であった。 頚髄症も改善したが、91歳の患者は退院間際に誤嚥性肺炎にて死亡した。
【考案】頚椎要因の首下がりは、頚椎後弯はあるが、自然整復され、円背などの形態変化は見られなかった。 術前の頚椎SVAは35mmであった。MRIでの特徴は後頚部筋の高度な萎縮を伴うこともある。術後のC7-仙骨とのSVAは0に近い数値を示した。
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