1.当院の脊椎手術における、高齢者と非高齢者の術後内科合併症の検討 大分整形外科病院 三尾 亮太(みお りょうた) 【はじめに】高齢化社会に伴い、手術件数に占める高齢者の割合が増加しているが、術後内科合併症のリスクがあるため、手術治療の選択に苦慮することがある。今回、当院の脊椎手術において、高齢者の術後内科合併症について検討した。 【方法】2021年に当院で行われた脊椎手術のうち、80歳以上を高齢者群、80歳未満を非高齢者群として、術後内科合併症について調査した。 【結果】非高齢者群293例のうち、28例で合併症を認めた。内訳は消化器疾患2例、肝障害3例、電解質異常3例、脳梗塞3例、皮膚疾患8例、深部静脈血栓症2例、泌尿器疾患4例、ミオクローヌス1例、せん妄1例、腎障害1例であった。 高齢者群では手術症例63例のうち17例で合併症を認めた。内訳は肝障害2例、電解質異常12例、泌尿器疾患2例、せん妄1例であった。 【考察】高齢者群は非高齢者群と比較し、術後に電解質異常が起こりやすい傾向にあった。高齢者群の母数は小さいが、脳梗塞をはじめとする重篤な合併症は高齢者群で少なく、適切な周術期管理のもと手術加療は有効な選択肢であると考えた。 |
2.脊椎術後患者における低ナトリウム血症の発生率と危険因子の検討 鹿児島大学医学部 整形外科 眞田 雅人(さなだ まさと)、冨永 博之、河村 一郎、徳本 寛人、佐久間 大輔、谷口 昇 【背景】整形外科の手術後に低Na血症が起こる頻度は約30%と報告がある。高齢患者に生じやすく、低Na血症が高度な場合、意識障害の危険性もあり注意が必要であるが、脊椎術後の低Na血症の危険因子に関する報告は少ない。本研究の目的は脊椎術後の低Na血症の発生率と危険因子を検討することである。 【方法】対象は2020年から2021年までに当院で脊椎手術を行った患者200例。年齢、性別、身長、体重、BMI、手術時間、出血量、術前Alb・GNRI・K、eGFRと術前後のNa値を測定し、術後低Na血症群と正常群との二群間比較を行った。 【結果】56例(28%)の症例で術後低Na血症を認めた。二群間比較では、年齢、術前Alb、GNRI、K、eGFR、術前低Na血症が術後低Na血症の発生と関連していた。また術後低Na血症群は、正常群に比較して有意に入院期間の延長を認めた。 【考察】脊椎手術後の患者のうち28%に低Na血症を認めた。術後低Na血症の危険因子は、高齢、術前の低Na血症、今回の報告では新たに術前低栄養、腎機能低下が危険因子であった。術後低Na血症群は有意に入院期間を延長するため、対策が必要と考えられた。 |
3.80歳以上腰椎椎体間固定術例の周術期血液検査の検討 -80歳以上群と60-79歳群の腎機能およびHbの比較- 那覇市立病院 整形外科 勢理客 ひさし(せりきゃく ひさし)、比嘉 勝一郎、屋良 哲也 【対象と方法】2016年4月~2022年2月に60歳以上でL4/5またはL5/Sの単椎間椎体間固定術のみを施行した症例のうち透析、化膿性椎体・椎間板炎およびデータ不備を除いた77例(男性:39例、女性:38例)を対象とした。80歳以上群と60~79歳群に分け、手術時間、術中および術後出血量、術前、術翌日および術後1週の血中Cre、eGFR、CPK、Hbについて2群間の比較を行った。またeGFR変化率1、7(=術後1日、7日/術前)を求め、周術期Acute Kidney Injury(=AKI)の有無に関しても検討した。 【結果】手術時間、術中および術後出血量に有意差を認めなった。eGFRは術前、術翌日および術後7日後ともに80歳以上群は60-79歳群に比較し有意に低値であった。CPKは術前、術翌日および術後7日後ともに両群間に有意差を認めなかった。AKIは両群ともに認めなった。術前および術後に関して貧血の頻度に関して両群間に有意差を認めなかった。 |
4.高齢者脊椎手術の諸問題~術中神経モニタリングからの検討 福岡みらい病院 整形外科・脊椎脊髄病センター 柳澤 義和(やなぎざわ よしかず) 【はじめに】高齢者の脊椎手術時モニタリングでは若年者と比べコントロール波形の記録や術中評価に苦慮することがある。今回、モニタリング所見から高齢者脊椎手術の問題点を検討した。 【対象と方法】2018年4月から2020年3月まで演者が執刀し手術時年齢が80歳以上の高齢者でモニタリング下に脊椎手術を行なった33例(平均年齢:85.3歳、男女比10:23)を対象とした。術前診断はLSCS:12例、腰椎椎体骨折:9例、LDH:5例、胸椎椎体骨折:4例などであった。調査項目としてコントロール波形描出率、特にAHの検出率、術中モニタリング異常所見やMEP振幅の改善例、術後経過について検討した。 【結果】コントロール描出率は75.8%、AH検出率は87.9%であった。術中異常所見としてfEMGを4例に、MEP低下を1例に認めたが全てfalsepositiveであった。また術中MEP振幅の改善を2例に認めた。術後経過として術前麻痺症例で術中MEP改善を認めた2例では術後ADLは改善していた。 【考察】高齢者のコントロール検出困難例であってもAHは比較的描出が容易であった。また術中MEP振幅の増大は予後予測に有用と考えられた。 |
5.高齢者(80歳以上)の腰部脊柱管狭窄症に対する神経根ブロックの有効性の検討 九州中央病院 整形外科 境 真未子(さかい まみこ)、井口 明彦、今村 隆太、泉 貞有、山本 雅俊、吉本 将和、副島 悠、中村 公隆、濱田 貴広、有薗 剛 【はじめに】80歳超の高齢者は、生理機能低下、併存疾患を有しており、高度の腰部脊柱管狭窄症でも保存的治療を希望されることも多い。選択肢の一つとなる神経根ブロックの有効性を検討した。 【方法】対象は2010~20年に同一術者によって神経根ブロックを行った、馬尾症候群を伴わない80歳以上の投薬治療抵抗性の腰部脊柱管狭窄症例112名(平均年齢84歳、男性45名、女性67名)。手術の有無、ブロック効果、実施回数、罹病期間、MRI画像を後ろ向きに調査、比較検討を行った。 【結果】非手術症例86名(うち有効71例)、手術症例26名であった。ブロックが有効で手術が回避できた割合は71例/112名(63%)であった。責任高位での脊柱管面積は有効群108.6mm2、非有効群 77.0mm2であり非有効群で有意に狭かった(p=0.0094)。そのほか二群間に有意差はなかった。 【考察】神経根ブロックは、高齢者腰部脊柱管狭窄症の半数以上に有効であり、種々のリスクを伴う高齢者に対する治療の選択肢の一つとなり得る。 |