第94回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅳ)


14.若年者と高齢者における骨傷を伴う頚髄損傷の比較検討
 
総合せき損センター
 
山口 雄大(やまぐち たかひろ)、森下 雄一郎、河野 修、前田 健

【目的】頚髄損傷において、最終的な歩行能力の獲得は社会復帰における大きな影響因子である。今回、10 代の若年者と 65 歳以上の高齢者の骨傷を伴う頚髄損傷の病態生理について比較検討した。
【対象と方法】2009 年から 2018 年の過去 10 年間で受傷後72 時間以内に初期診断が可能で、受傷後 24 ヶ月のフォローが可能であった骨傷を伴う頚髄損傷患者の 10 代若年者 18 名と 65 歳以上高齢者 26 名を対象とした。 神経学的評価を ASIA impairmentscale(AIS)および ASIA motor score(AMS)を用いて受傷時と受傷後 24 カ月に行った。
【結果】初診時の全症例平均 AMS(上肢 /下肢)は、初診時 若年者群 15.3/5.61、高齢者群 31.92/21.73と、若年者群が重篤な四肢麻痺を呈していた。受傷後 24カ月で若年者群も高齢群も AMSの改善を認めたが、改善率は若年者群が統計学的有意に高かった。不全麻痺(AIS B以上)症例では、若年者の 7/7例(100%)と高齢者の 12/18例(66.7%)が最終観察時に歩行能力獲得(改良 Frankel分類D2以上)していた。
【考察】10 代の頚髄損傷は、高齢者と比較すると頚髄損傷の回復能力が高く、初診時に不全麻痺であれば自立歩行での社会復帰をゴールに設定することができると思われた。
15.胸髄損傷後に生じた脊髄鉛筆状軟化症の 1 例

長崎大学 整形外科
 
横田 和明(よこた かずあき)、相良 学 、山田 周太、津田 圭一、 田上 敦士、 尾﨑 誠
 
 脊髄鉛筆状軟化症は脊髄損傷などによる横断性脊髄壊死が病因となり、数髄節にわたり壊死巣が形成される疾患であり、壊死の広がりによる神経症状の悪化を生じることから注意を要する。脊髄損傷後に生じた 1 例を報告する。
 68 歳男性。歩行中に乗用車にはねられ受傷し当院搬送となった。Th3 高位で胸椎脱臼骨折、Frankel 分類 A 胸髄損傷の診断で、同日脊椎後方固定術を行なった。受傷 2 週目より上肢の麻痺が進行し自発呼吸の消失を認めた。MRI にて延髄まで広がる脊髄浮腫の所見を認め、脊髄鉛筆状軟化症が疑われた。全身治療が行われたが、受傷3 ヶ月で死亡した。病理解剖では、胸髄から延髄に広がる脊髄壊死の所見が確認された。
 脊髄損傷後に上行する麻痺増悪を生じる症例があるが、本病態が関与している可能性が考えられる。脊髄壊死が広範囲に広がる症例の報告も散見され、脊髄損傷後の全身状態の変化については注意深く観察する必要がある。
16.急性期外傷性頚髄損傷における肺炎の発生率と危険因子
Incidence and risk factors of aspiration pneumonia following acute traumatic cervical spinal cord injury

 
独立行政法人労働者健康安全機構
総合せき損センター 
整形外科 1)、リハビリテーション科 2)、看護科 3)
 
林 啠生(はやし てつお)、藤原 勇一、久保田 健介、横田 和也、益田 宗彰、森下 雄一郎、坂井 宏旭、河野 修、前田 健
 
【はじめに】急性期頚髄損傷における肺炎は致命的になりうる重篤かつ重要な合併症である。一方で近年、頚髄損傷後の嚥下障害に関する研究も散見されているが、肺炎との関連についての報告はほとんど無い。本研究の目的は、頚髄損傷後肺炎の発生率および危険因子を検討することである。
【方法】受傷後2週以内に入院した急性期頚髄損傷 167例を対象として、肺炎の有無・年齢・嚥下障害の臨床重症度分類・ASIA impairment scale・受傷高位・肺活量・喫煙歴・気管切開を retrospectiveに調査した。
【結果】肺炎は 30 例(18%)に発症していた。そのうち誤嚥に関係する肺炎は 26 例(16%)であり、肺炎のうち誤嚥性肺炎の占める割合は 87%であった。多変量解析にて、肺炎に対する有意な危険因子は、AIS A または B、そして誤嚥の存在であった。
【結語】外傷性頚髄損傷後の肺炎は、誤嚥性肺炎の占める割合が非常に高かった。また重篤な麻痺や誤嚥は肺炎の有意な危険因子であった。
17.急性期頸髄損傷における嚥下障害と呼吸障害の経時的変化と相関関係
 
総合せき損センター 整形外科
 
松本 祐季(まつもと ゆうき)、林 哲生、藤原 勇一、河野 修、坂井 宏旭、益田 宗彰、森下 雄一郎、久保田 健介、小早川 和、横田 和也、金山 博成、大迫 浩平、入江 桃、山口 雄大、岸川 準、前田 健
 
【はじめに】頚髄損傷の重要な合併症の1つに嚥下障害があるが、その発生機序は十分に分かっておらず、頚髄損傷後の呼吸障害と嚥下障害の関係を調査した報告はない。本研究の目的は、頚髄損傷による呼吸機能障害が嚥下機能に及ぼす影響を明らかにすることである。
【対象と方法】2018年 8月から 2020年 7月までの 2年間のうちに、 受傷後 2週間以内に急性頚髄損傷で当院に入院した患者を前向きに評価した。嚥下機能は嚥下障害臨床重症度分類 (1:唾液誤嚥- 7:正常 )と Functional Oral Intake Scale(FOIS, 1:経口摂取なし- 7:正常)で、呼吸機能は咳嗽時最大呼気流量・1秒量・1秒率・%肺活量を 2・4・8・12週で評価し、経時的変化と相関関係を解析した。
【結果】症例数は 33 例(男性 28 例、 女性 5 例、 平均年齢 67 歳)であった。経時的変化として、嚥下障害と呼吸障害は有意に改善していた。咳嗽時最大呼気流量、1 秒量、%肺活量は各時期において嚥下機能の重症度に有意な相関を認めた。
【結語】呼吸障害と嚥下障害は密接に関係しており、特に咳嗽力の評価は嚥下障害の評価にも重要な役割を果たすと思われる。
18.頚椎前方固定術後に生じた頸髄損傷の一例
 
福岡大学 整形外科
 
塩川 晃章(しおかわ てるあき)、田中 潤、柴田 遼、眞田 京一、萩原 秀祐、山本 卓明
 
【はじめに】頚椎前方固定術後に頸髄損傷を起こした 1 例を経験したので報告する。
【症例】75 歳、男性。2019 年 10 月頃から頚部~左肩甲骨にかけての疼痛が出現し近医より紹介となる。頚椎 MRI にて C5/6 の椎間板ヘルニアを認め内服加療を開始。同年 12 月頃から急激に歩行障害、巧緻運動障害が出現したため再度 M R I 施行。ヘルニアの増大を認め手術を行った。術直後よりC7 以下の筋力・感覚が消失し Frankel A の状態であった。術後 CT ではインプラントの異常なく、MRI では除圧は良好であったが同レベルでの脊髄内に T2 高輝度変化を認めた。応急的にステロイド(ソル・メドロール 500mg)を投与。術後2 日目より感覚が出現し、3 日目より筋力も改善傾向となり術後 2 ヶ月で2本杖歩行、術後 1 年8 ヶ月現在改良1本杖歩行まで改善している。
【考察】術後に麻痺が出現する要因としては術中の操作が一番に考えられるが、麻痺の急激な進行期では軽微な刺激でも神経に悪影響を及ぼす恐れがあり注意が必要である。
PAGE TOP