第94回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅰ)


1.重度頸椎変性すべり症の特徴

山口大学 整形外科

今城 靖明(いまじょう やすあき)、鈴木 秀典、舩場 真裕、坂本 拓哉、坂井 孝司

【目的】重度頸椎変性すべり症の特徴の解明
【対象】頸椎手術症例のうち側面 Xp)で 3.5mm 以上すべっている 37 例(男 19、女 18、年齢 73.6 歳)を対象とした。
【方法】Xp 側面像で、C2-7cobb 角、C2-7SVA,C7slope,facet joint inclination(FJI)、水平面に対する FJI(HFJI)、CT 像で Facet joint angle(FJA)の差、拡大した横突孔(LTF)、臨床成績は JOAで検討した。
【結果】前方すべり 27 例(A 群)、後方すべり 10 例(P群)で年齢は A 群が有意に高かった。固定術がA 群 16 例、P 群 4 例 で あ っ た。2 群 間 で はC3,4,5 椎体の HFJI が A 群で有意に小さく、C2-7SVA が A 群で有意に大きかった。LTFは7例(A群5,P 群2)であった。術前 JOA は ,A 群で有意に低かったが、術後 2 群間に差はなかった。
【考察】A 群 は、C3,4,5 椎 体 の HFJI が 小 さ く、C2-7SVA が大きいことが特徴で、固定術で P 群と変わらない治療成績を得られる。
2.電気生理学的検査、超音波検査を用いた近位型頚椎症性筋萎縮症の評価:神経根症、頚髄症、健常者との比較
 
高知大学 整形外科

田所 伸朗(たどころ のぶあき)、古月 拓巳、青山 直樹、喜安 克仁、武政 龍一、池内 雅彦
 
【背景と方法】三角筋や上腕二頭筋の筋力低下を生じる近位型 頚椎症性筋萎縮症(以下 CSA)の病態は議論があ る。近年、超音波検査によって頸部神経根症での 神経根腫大の報告がなされている。一側の三角筋、 上腕二頭筋に筋力低下(MMT < 3)を伴った CSA14 例と C6 神経根症(C6CR)23 例、三角筋 と上腕二頭筋の筋力低下を認めなかった頚椎症性 脊髄症(CSM)12 例、健常者 29 例を対象に三 角筋、上腕二頭筋複合筋活動電位(CMAP)振幅、 C5,6 神経根の横断面積(CA)、画像検査所見を 比較検討した。
【結果】三角筋 CMAP は CSA の患側(1.2 ± 1.1 m V)、 健側(5.9 ± 1.5 m V)でほかの群に比べ有意に 低 値(P < 0.001、P = 0.035) で あ り、C6CR では患側の C6CA(0.089 ± 0.020cm2)が有意 に増大していた(P < <0.001)。C6CR では患側 上腕二頭筋の CMAP(7.2 ± 1.5 m V)が健側に 比べ低下していた。(P = 0.03)CSA は C3/4 や 4/5 の不安定性を多く認め(P = 0.001)、C4/5 椎間孔狭窄が多かった(P < 0.001)。
【考察】C6CR では C6 根の CA 増大を認め、一側性の CSA で両側性に CMAP 振幅低下を認め、神経根 の CA 変化は認めなかったことから CSA は神経根 障害よりも脊髄障害の可能性が考えられた。
3.Keegan 型頚椎症の短期治療成績
 
長崎労災病院

貞松 毅大(さだまつ たけひろ)、馬場 秀夫、岩本 俊樹、三溝 和貴、舛本 直哉、小西 宏昭
 
【はじめに】Keegan 型頚椎症に関する治療報告は少ない。当院で Keegan 型頚椎症に対して手術加療行った症例の治療成績について検討したので報告する。
【対象】2007 年 6 月から 2021 年 4 月までに三角筋、または上腕二頭筋の筋力いずれかが MMT3 以下に低下した Keegan 型頚椎症に対して手術加療行った 41 症例。男性 35 例、女性 6 例で平均年齢は 66.9 歳(45-84)だった。
【方法】症状出現から手術までの期間、術式、術前のMMT、術後 3 ヶ月時点での MMT を評価した。
【結果】手術までの期間は平均 22 週(2-150 週)で術式 は 前 方 固 定 術 が 24 例、 椎 弓 形 成 +foraminotomy が 11 例、 椎 弓 形 成 術 が 4 例、foraminotomy が 1 例、前方固定+椎弓形成術 1例だった。術後 3 ヶ月時点で MMT が 5 まで改善した症例の割合は、症状出現から 1 ヶ月以内
の手術で 80%(5 例中 4 例)、1 ~ 3 ヶ月の手術で 22%(23 例中 5 例)、3 ヶ月~ 1 年の手術で22%(9 例中 2 例)、1 年以降の手術で 0%(3 例中 3 例)だった。
【まとめ】Keegan 型頚椎症に対して早期手術した症例の方が MMT 改善した割合が多い傾向にあった。
4.術中膀胱直腸障害を予防するための新しい外肛門括約筋記録法の検討
 Examination of a new external anal sphincter recording method for preventing intraoperative bladder rectal disorder
 
医療法人相生会 福岡みらい病院
整形外科・脊椎脊髄病センター 1、医療法人相生会 福岡みらい病院 臨床工学科 2、医療法人相生会 福岡みらい病院 麻酔科 3
 
栁澤 義和(やなぎさわ よしかず) 1、梅崎 遼平 2、江崎 康隆 2、竹本 啓貴 2、 大屋 孝稀 2、田中 宏明 3、谷口 良雄 3、 松田 和久 3、大賀 正義 1
 
【はじめに】以前、術中損傷の有無を評価できず術後馬尾症候群を来した症例を経験した。膀胱直腸障害は患者の QOL に大きな影響を与える重篤な術中合併症である。しかし、外肛門括約筋(以下、EAS)の振幅は小さく評価が困難な場合が多い。最近当科では EAS のモニタリング法を見直し新たな記録方法を開発した。今回、従来法と新記録法を比較して有用性を検討した。
【対象と方法】2020 年 5 月から 7 月まで術中神経モニタリング下に脊椎手術を行った 25 例(男:女 17:8、平均年齢 : 67.2 歳)を対象とした。疾患は腰部脊柱管狭窄症:14 例、腰椎椎間板ヘルニア:5 例、頸椎症性脊髄症・後縦靭帯骨化症:4 例、その他であった。経頭蓋電気刺激筋誘発電位 (Brainevoked muscle-action potential:Br-MsEP) で EASを記録し、従来法 anal1:左右の EAS にペア針電極で記録、新記録法 anal2:EAS と尾骨との電位差とした。Br-MsEP 振幅は 30 μ V 以上を有効とし、検討項目として anal1,2 の導出率と記録電位を比較した。
【結果】導出率は anal1:anal2=31.8%:96.0% と anal2 の方が良好に導出できた。また記録電位は 32.4 μV:89.7μVと anal2 の方が有意に大きかった(P=0.00824)。
【考察】文献的には EAS の記録法としてプラグ電極よりも括約筋自体に針電極を刺して記録する方が有用とされているが、振幅は小さく評価困難なことが多い。特に今回は anal1 の導出率が低かったのは吸入麻酔による影響が一因と考えられた。一方で Anal2 は anal1 よりは導出率が高く、また他の報告よりも振幅は明らかに大きかった。新記録法は術前から馬尾障害を認めていても有用と考えられた。また術中馬尾障害を評価しやすく、予防するには有用と考えられた。

 新しい外肛門括約筋記録法は従来法よりは導出率が高く振幅も明らかに大きいため術中馬尾障害の予防に有用と考えられた。
5.当科における高度筋力低下を伴った脊椎脊髄疾患手術症例の検討
 
県立広島病院 整形外科
 
西田 幸司(にしだ こうじ)、川口 修平、向井 俊平、松下 亮介、中村 光宏、松尾 俊宏、望月 由
 
【目的】脊髄損傷や腫瘍、血腫では高度麻痺をきたすことが知られているが、頚椎症性脊髄症や腰部脊柱管狭窄症といった慢性疾患における筋力低下を検討した報告はあまりない。本研究の目的は当科における高度筋力低下をきたした脊椎脊髄疾患について調査することである。
【対象と結果】2018 ~ 2019 の 2 年間に当科で施行した脊椎脊髄手術症例 180 例のうち、MMT 3 以下の筋力低下をきたした手術症例を調査した。高度筋力低下症例は 31 例存在したが、脊椎脊髄損傷、血腫を除外すると 22 例であった。男性 18 例、女性4 例、平均年齢は 70 歳(33-93)、頚椎 10 例{頚椎症性脊髄症 (CSM)3 例、頚椎後縦靭帯骨化症(COPLL)3 例、頚椎椎間板ヘルニア (CDH)2 例、頚椎症性筋委縮症 (CSA)1 例、歯突起後方腫瘤(PT)1 例 }、 胸 椎 3 例{ 胸 椎 黄 色 靭 帯 骨 化 症(TOYL)2 例、胸椎症性脊髄症 (TSM)1 例}、腰椎9 例{腰部脊柱管狭窄症 (LCS)5 例、腰椎椎間板ヘルニア (LDH) 4例}であった。
 疾患における高度筋力低下症例の割合は CSM11% (3/27)、COPLL 17(3/18)、CDH 33(2/6)、CSA 100(1/1)、PT 50(1/2)、TOYL67 (2/3)、TSM 17(1/6)、LCS 17 (5/30)、LDH 36 (4/11)、高位による割合は頚椎 19%(10/54)、胸椎 33(9/41)、腰椎 22(9/41)であった。
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