第93回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅵ)


34.膝窩腱炎に伴う偽性脊柱後弯症の1例
 
佐賀県医療センター好生館 整形外科・脊椎外科 1
九州大学 整形外科 2
 
林田 光正(はやしだ みつまさ)1、馬場 覚1、北出 一季1、前 隆男1、川口 謙一2、松下 昌史2、幸 博和2、松本 嘉寛2、中島 康晴2

 両膝窩筋腱炎に伴う偽性脊柱後弯症と考えられた症例を経験したため報告する。症例は 76 歳女性。主訴は腰痛、両下腿以下の痛みしびれとそれに伴う歩行障害。(所見:脊椎)間欠跛行3分。両下腿のしびれは坐位で改善。Kitchen elbow sign 陽性。両 SLRT陽性。両足底の触覚鈍麻を認めるものの、その他明らかな神経学的所見はなし。Xp 所見で PI 46 度、LL 19度。SVA 220mm と PI-LL ミスマッチを認めた。MRIで脊柱管の狭窄は軽度。(所見:膝)両膝関節で伸展-15 度と可動域制限あり。膝窩部(腓骨頭の内側)に強い圧痛あり。他動的に伸展 0 度に強制すると両下腿から足底のしびれ感の誘発を認めた。MRI で膝窩筋腱に沿って T2 high lesion を認め、膝窩筋腱炎と診断された。透視撮影下に膝窩筋腱を造影したのち、デキサメタゾン 0.83mg+ キシロカイン注射液1%,5ml を注射 。 注射直後に歩行時疼 痛は改善(VAS80→15)。膝関節伸展が可能となり、全脊椎 Xpで LL 34 度、SVA 75mm に改善した。理学所見や脊柱パラメーターからはいわゆる ASD の範疇であるが、膝関節の屈曲位と膝窩部の痛みが偽性脊柱後弯症の原因になりうると考えられた。
35.成人脊柱変形手術後に発症した肺塞栓症

高知大学医学部 整形外科
 
喜安 克仁(きやす かつひと)、葛西 雄介、青山 直樹、武政 龍一、池内 昌彦
 
【目的】肺塞栓症は稀な合併症であるが、発生すると生命に関わる重篤な疾患である。今回成人脊柱変形手術後に発生した肺塞栓症を報告する。
【症例 1】68 歳男性。腰部脊柱管狭窄症、成人脊柱変形に対して第 10 胸椎~骨盤の後方矯正固定術を施行した。術後 3 日目より歩行開始、術後 20 日目に胸部違和感を訴えられ、心電図で波形異常、造影 CT で肺動脈に血栓を認めた。抗凝固剤を開始し、症状は改善した。
【症例 2】70 歳女性。成人脊柱変形に対して第 10 胸椎~骨盤後方矯正固定術を施行した。術後 6 日目歩行を開始、術後 15 日目リハビリ中に意識消失した。造影 CTにて肺塞栓症と診断され、ICU で集中管理となった。その後改善し歩行訓練を再開した。
【考察】成人脊柱変形術後の VTE/PE の発生率は0.9~2.4%と報告があり、一般の脊椎手術より発生頻度が高い傾向にある。今回の症例では術後下肢エコーでは深部静脈血栓症を疑う所見は認められてなく、術後2週間以上経過してからの発生であった。そのため成人脊柱変形術後経過は慎重にみていく必要があり、今後予防方法を検討していく必要があると思われた。
36.成人脊柱変形手術において伸展矯正後に生じた急性腹腔動脈圧迫症候群の 1 例

大分大学 整形外科
 
石原 俊信(いしはら としのぶ)、宮崎 正志、阿部 徹太郎、津村 弘
 
成人脊柱変形手術において矢状面バランスの伸展矯正後に急性腹腔動脈圧迫症候群(acute celiac artery compression syndrome :ACACS)を生じた症例について報告する。症例は 77 歳、女性、主訴は腰背部痛と脊柱変形であった。この症例に対して extreme lateral interbody fusion (XLIF)を用いた二期的な変形矯正を施行したところ、二回目の手術の直後より、患者が頻回の嘔吐と下痢を生じた。造影 CT を撮影すると、L1/2 のレベルで腹部大動脈の著明な狭窄を生じており、腹腔動脈と上腸間膜動脈は描出されていなかった。同日緊急手術を施行したところ、小腸の色調は不良で蠕動は消失していた。また腎動脈の中枢側で大動脈が前方より圧迫されていた。前方からの圧迫は正中弓状靭帯と腹腔神経叢によるものであり、ACACS の状態と考えられた。これらを切離して圧迫を解除すると、小腸の色調と蠕動は改善した。術後は腹部症状の再発はなく、術前の腰背部痛も改善した。
37.成人脊柱変形における DISH が脊椎 alignment に及ぼす影響
 
大分整形外科病院
 
田原 健一(たはら けんいち)、大田 秀樹、松本 佳之、井口 洋平、木田 吉城、巽 政人、柴田 達也、眞田 京一、萩原 秀祐、竹光 義治
 
【目的】腰椎前彎低下は骨盤後傾と胸椎後彎減少にて代償される。DISH にて胸椎可動性が低下した場合、脊柱alignment はどのように影響されるのであろうか?成人脊柱変形手術患者の脊椎骨盤パラメーターを、DISH 群(D 群)と非 DISH 群(ND 群)で比較検討した。
【方法】再手術や椎体骨折例を除く成人脊柱変形手術患者32 例(2016.1~2020.12、男性 9 名、女性 23 名、平均年齢 73.1 歳)を対象。調査項目は SVA、LL、TK、PI、PT。
【結果】32 例中 9 例(28.1%)に DISH を認めた。SVA:D群 121.7、ND 群 81.0、LL:D 群 11.8、ND 群 19.4、TK:D 群 26.0、ND 群 17.1、PI:D 群 56.4、ND 群 54.6、PT:D 群 40.0、ND 群 30.5。D 群で TK:有意に大、有意差は無いが SVA:大、LL:小、PT:大という結果であった。
【考察】胸椎可撓性が低下した DISH においては、腰椎前彎低下の代償として胸椎後彎減少が生じにくく骨盤後傾で代償する傾向が示唆された。
38.脊柱変形に対する FESS(PED)の応用
 
いまきいれ総合病院
 
宮口 文宏(みやぐち ふみひろ)、川畑 直也
 
【背景】人口の高齢化に伴い脊椎変性疾患の患者が増加しつつある。特に変形性腰椎側弯症(以下 DLS)ではどこまで固定するか議論の分かれるところであり、固定後の隣接椎間障害、側弯による椎間孔障害などが問題として挙げられる。
【目的】今回我々の目的は DLS に対する FESS の有効性を評価すること
【考察】DLS に対して固定術後、隣接椎間障害が出現するとさらにどこまで固定を追加するか懸念される。隣接椎間のヘルニアや椎間孔狭窄であれば、FESS を用いて不安定性を生じさせずに除圧可能である。DLS の初期症状として L5/S1 レベルの外側障害が挙げられる。この疾患に対しても FESS を用いて 8mm の細い径で最小限の骨切除で除圧可能である。
【結語】FESS は DLS の椎間孔障害、隣接椎間障害に対して有効な手術方法の一つである。
39.高齢者の腰椎変性側弯症患者に対する経仙骨的脊柱管形成術の治療成績の検討
 
福岡みらい病院 脊椎脊髄病センター
 
栁澤 義和(やなぎさわ よしかず)、大賀 正義
 
 慢性疼痛治療ガイドラインでは脊椎術後症候群や脊柱管狭窄症に対する epidurascopy は施行することが弱く推奨されている。今回、高齢者の腰椎変性側弯症(以下、DLS)由来の腰痛・下肢痛に経仙骨的脊柱管形成術(以下、TSCP)を行った治療成績について調査したので報告する。
 対象は DLS に TSCP を施行した患者 10 例で平均年齢は 81.3 歳、男女比 3:7。腰下肢痛に対して TSCP を施行し、術前後の治療成績について術中所見、術後経過、JOA スコアにて評価した。術後平均経過観察期間は 6.2 か月。
  結果。術中所見では 4 例で最終的にカテーテル刺入は L1/2 高位まで刺入可能であったが、術後瘢痕や Cobb 角度が 11 度以上、前方辷りがあると刺入困難であった。術後経過は経過良好群: 5 例、残り 5 例は術後平均平均 5.8 か月で再手術を必要とした。JOA スコアは術前平均 7.5 点から術後 16.9 点と有意に改善を認めた(P<0.001, paired t-test)が、術後 JOA スコアは側弯のない症例(平均 21.7 点)と比較すると有意に低かった(P=0.0102715, unpaired t-test)。
 高齢者の DLS に対する TSCP の治療成績には限界はあるが、低侵襲であり術後 5 か月程度であれば、 ADL や QOL の改善に寄与できる手術手技である可能性が示唆された。
追加.Achondroplasia に伴う小児胸腰椎後弯変形への矯正固定術の 1 例
 
済生会福岡総合病院 整形外科1
総合せき損センター2
 
荒武 佑至(あらたけ ゆうじ)1、坂井 宏旭2、前田 健2、河野 修2、益田 宗彰2、森下 雄一郎2、林 哲生2、久保田 健介2、横田 和也2、伊藤田 慶2、大迫 浩平2
 
【はじめに】Achondroplasia(軟骨無形性症)は、四肢短縮型低身長を示し、時に脊柱変形および腰部脊柱管狭窄を呈する疾患である。今回、Achondroplasia に伴う高度胸腰椎後弯変形に対して後方矯正固定術を行った症例を報告する。
【症例】12 歳女児、軟骨無形性症。腰痛・両大腿前面痛あり。胸腰椎後弯変形および腰部脊柱管狭窄に対して手術加 療 目 的 に て入院 。 腰 椎 画 像 :interpedicular narrowing・posterior scalloping・wedge vertebra など Achondroplasia に特徴的な所見を認めた。立位全
脊椎アラインメントは SVA:180mm、T12-L3 cobbangle:93°、MRI では胸腰椎を中心に広範な脊柱管狭窄を認めた。以上に対して O-arm navigation を併用し、T12-L4 後方矯正固定術および L2 PSO を施行した。術中、後弯矯正後 MEP 波形が低下したため、脊髄造影を行い、椎弓による造影剤の途絶を認めた。骨性除圧を追加後、MEP 波形の回復を確認、手術を終了した。術後アラインメントはSVA:-55mm、T12-L3 cobb angle:32°と改善を認めた。術後の神経学的脱落症状はなく、術前の腰痛および両大腿前面痛は速やかに改善した。その後 1 年 6 ヶ月の follow では矯正損失などはなく、経過は良好である。
【考察】小児 Achondroplasia における胸腰椎後弯変形に対して矯正固定術を要した 1 例を経験した。進行する脊柱後弯変形による有症状を改善するために、矯正固定術は有効な手段と考えられる。
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