第93回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題Ⅳ)


17.思春期脊柱側弯症に対する後方矯正固定術の治療成績
 
JA 広島総合病院 整形外科 脊椎・脊髄センター1)
メディカルスキャニング東京2)
 
宇治郷 諭(うじごう さとし)1)、山田 清貴1)、橋本 貴士1)、水野 尚之1)、小野 翔一郎1)、村上 欣1)、鈴木 信正2)、藤本 吉範1)

【目的】思春期脊柱側弯症に対する後方矯正固定術におけるHybrid法、Pedicle screw(PS)法の治療成績を検討する。
【方法】脊柱側弯症32例(女性27例、男性5例、平均17歳)を対象とした。カーブタイプは胸椎カーブ(MT)22例、胸腰椎・腰椎カーブ(TL/L)10例であった。カーブタイプ別およびHybrid法、PS法の術式別に治療成績を検討した。検討項目は、固定椎間数、手術時間、出血量、合併症、術前後の主カーブCobb角、矯正率、SRS-22とした。
【結果】固定椎間数は平均9.9椎間、手術時間306分、出血量672gであり、周術期合併症は認めなかった。Cobb角は術前平均54.9°術後15.9°、矯正率は71.7%であった。カーブタイプ別では、MT、TL/L両群で矯正率に有意差はなかったが、TL/Lでは固定椎間数、手術時間、出血量、術前Cobb角が有意に低値だった。MTに対する術式別の治療成績は、各項目で有意差はなかった。SRS-22 は、MT(PS法)、MT(Hybrid法)、TL/L(PS法)で有意差はなかった。
【結語】MTに対するHybrid法、PS法の治療成績に差はない。TL/Lに対する PS 法は少ない侵襲で変形矯正が可能であった。各術式の特徴を踏まえた術式選択が有効であると考える。
18.Lenke1-・2-の思春期特発性側弯症における胸椎後弯形成を目指した後方側弯矯正術
-Rail rod を用いた Differential Rod Technique

幡多けんみん病院 整形外科1)
高知大学 整形外科2)
 
葛西 雄介(かさい ゆうすけ)1)、武政 龍一2)、青山 直樹2)、喜安 克仁2)、池内 昌彦2)
 
【目的】胸椎の後弯が減少した思春期特発性側弯症では、特に胸椎後弯の獲得が課題である。我々はRail rodを用いた Differential Rod Techniqueによる矯正術を行っており、Lenke type1-、2-の思春期特発性側弯症における矯正の有効性を調べた。
【方法】本法は、椎弓根スクリューを設置したあと、線路の形状に似て剛性の大きなrodをoverbendして凹側に、剛性の小さなrodをunderbendして凸側に配して矯正する術式である。症例は6例で、術前と最終調査時の矯正角度を調べた。
【結果】主カーブのCobb角は術前平均60.3°が17.3°に矯正した。平均胸椎後弯角はTh5-12で3.3°が27.6°へ、Th2-12で8.5°が19.7°へ増加した。T1slopeは4.8°から10.0°へ増加した。平均C2-C7前弯角は9.3度、LLは12.3増加した。
【考察】後弯が減少した胸椎が後弯化すると、頚椎や腰椎の前弯も増加し、全脊柱矢状面配列は生理的な状態に近づいた。
19.思春期側弯症Lenke type1に対するCoplanar法の有用性の検討

産業医科大学 整形外科
 
中村 英一郎(なかむら えいいちろう)、山根 宏敏、邑本 哲平、吉田 周平、山田 晋司、酒井 昭典
 
 側弯症手術においてCoplanar法は胸椎後弯の形成と椎体回旋の矯正に有用といわれている。本研究では従来からのRod rotation法とCoplanar法を比較検討した。
【対象と方法】2015年から2019年に思春期特発性側弯症手術を施行した22例のうち、Pedicle screwを用いた後方矯正固定術を実施し、Lenke type1で頂椎がT10以上であった10例(全例女性、平均年齢13.9 歳)を調査対象とした。従来法6例、Coplanar法4例であり、術前後のCobb角、回旋角、胸椎後弯角を計測し比較した。
【結果】従来法では術前後のCobb角59±9.7→14±3.3、回旋角12.0±4.5→8.5±2.9、胸椎後弯角29±10.7→19±5.6 に対し、Coplanar法では術前後のCobb角 61±6.4→16±2.6、回旋角 10.8±3.2→7.4±3.2、胸椎後弯角 30±16.7→20±2.1 であった。
【考察】Cobb 角、回旋角、胸椎後弯角の改善は従来法と Coplanar 法を比較すると明らかな差はなかった。しかし、術後の胸椎後弯角は Coplanar 法の標準偏差が小さくこの手技により安定した後弯が得られていると考えられた。
20.思春期特発性側弯症 Lenke type 1A-R におけるdistal adding-on 発生と椎体回旋の関連
 
鹿児島大学 整形外科1)
鹿児島赤十字病院 整形外科2)
 
河村 一郎(かわむら いちろう)1)、山元 拓哉2)、冨永 博之1)、八尋 雄平1)、徳本 寛人1)、俵積田 裕紀1)、谷口 昇1)
 
【はじめに】思春期特発性側弯症Lenke type 1Aでは、L4 が右傾斜の 1A-R と左傾斜の 1A-L とに細分化され、1A-R は distal adding-on(DA)のリスクが高いとされている。今回 1A-R における DA と関連する因子を各パラメータと椎体回旋を含め検討した。
【対象および方法】2009 年 12 月より Lenke type 1AR に対し手術を施行した、連続する 15 例中、画像欠損:1例、drop out:1例を除いた 13 例を対象とした。DA の定義は Cho らが報告した①Cobb 角及び②LIV 下椎間板角の 5 度以上増加とした。とした。患者背景と術前、術直後、術後2年での X 線パラメータ、CT を用いた椎体回旋を術後 DA の有無で検討した。
【結果および考察】術後 DA を4/13 例(DA+群)に認めた。DA を認めなかった DA―群と DA+群の2群間比較では、DA+群において術直後と比べ術後2年時に LIV は LIV+1 と間で右回旋が生じていた。術直後の UIV 回旋と術前―直後のΔUIV-LIV 角が DA+群で左回旋残存の傾向があり、術後2年でそれらが解消されたことから、DA は LIV を右回旋することで UIV 回旋遺残を代償することで生じる可能性が
示唆された。
【結語】Lenke type 1A-R における distal adding-onと椎体回旋の関連が示唆された。
21.選択的胸椎固定術後に生じた冠状面代償不全が改善した Lenke type 1C 思春期特発性側弯症の 2 例
 
琉球大学大学院医学研究科整形外科学講座
 
島袋 孝尚(しまぶくろ たかなお)、金城 英雄、山川 慶、大城 裕理、當銘 保則、西田 康太郎
 
 Lenke type 1C 思春期特発性側弯症に対して選択的胸椎固定術 ( Selective thoracic fusion : STF ) を施行し、術後に生じた冠状面代償不全が経過で改善した 2 例を報告する。
【症例 1】16 歳、女性。術前主胸椎カーブ(MT)71°、腰椎カーブ(L)50°の側弯に対して T4–11 の STF を施行した。L は術後 2 週で 28°が術後 1 ヵ月で 36°に悪化し、術後 6 ヵ月で 20°に改善した。L4 tilt (右への tilt を+) は術前 -14°が術後 1 ヵ月で-18° と悪化したが、術後 6 ヵ月で -4°に改善した。T1 tilt (右への tilt を+) は術前-8°が術後 1 ヵ月で 8°と左肩上がりとなったが、術後 6 ヵ月で 0°に改善した。
【症例 2】12 歳、女性。術前 MT 64°、L 47°の側弯に対して T4–12 の STF を施行した。L は術後 2 週で 22°が術後 6 ヵ月で 32°に悪化し、術後 2 年で 17°に改善した。L4 tilt は術前-19°、術後 6 ヵ月で-20°であったが、術後 2 年で-8°に改善した。T1 tilt は術前-5°が術後 6 ヵ月で 7°と左肩上がりとなったが、術後 2 年で 4°に改善した。
【考察】2 例とも左肩上がりを代償する過程で、L4 tilt の自然矯正が働いていた。STF の良好な冠状面代償には近位胸椎カーブと腰椎カーブの flexibility が重要と考えられた。
22.特発性側弯症術後に Salvage 手術を施行した 2 例
 
鹿児島赤十字病院 整形外科1
鹿児島大学 整形外科2
 
山元 拓哉(やまもと たくや)1、河村 一郎 2、坂本 光 1、冨永 博之 2、武冨 榮二 1、谷口 昇 2
 
 特発性側弯症の遺残変形に対し、前方解離(AR)とfusion mass osteotomy (FMO)、pedicle subtractionosteotomy (PSO)を用いた手術を行い、 良好な結果が得られたので報告する。
【症例1】34 歳女性。16 歳時手術施行するも、T1-6:53 度、T6-L2:68 度の側弯 T10/11 偽関節、腰背部痛と拘束性呼吸障害が遺残。AR、FMO、T4 の片側 PSO を用い、三期的に手術を施行し、T1-6:31 度、T6-L2:29度となった。
【症例 2】28 歳女性。11 歳時手術施行するも、C4-T5:36 度、T5-12:58 度の側弯と腰痛、混合性呼吸障害が遺残。AR、FMO を用い二期的手術を施行し、T1-5:9 度、T5-12:20 度となった。2例とも同種血輸血は回避でき、周術期合併症も特に認めず、腰背部痛、呼吸機能の改善が得られた。非常に硬い変形であり、充分な解離が重要と考えられるが、中下位胸椎及び腰椎への AR と FMO、上位胸椎への FMO と PSO は有効な手技と考えられた。
23.特発性側弯症に対し後方矯正固定術を施行した後の上位頚椎アライメント変化
 
大分大学医学部附属病院整形外科
 
阿部 徹太郎(あべ てつたろう)、宮崎 正志、石原 俊信、津村 弘
 
【目的】 特発性側弯症(AIS)に対し後方矯正固定術を行っ た後の、胸椎後弯形成と頚椎前弯化の関係について 明らかにする。
【対象と方法】 AIS に対し後方矯正固定術を施行した 27 例につい て後方視的に検討した。術前、術直後、術後 2 年時 点で の Cobb 角、C7-SVA、TK、LL、CBVA、 McGregor’s slope、O-C2angle、C2-C7angle、T1-slope、 SRS22 を調査した。術前 TK により、20°未満(低後 弯)群、20°以上(高後弯)群に分類した。
【結果】 術前 TK は低後弯群で 6.1 ± 3.7°、高後弯群で 23.5 ± 4.7°であり、術後 22.3 ± 44.4°、26.1 ± 2.6°に改善した(p=0.02)。術前 C2-7angle は低後 弯群で 7.4 ± 9.8°、高後弯群で-8.8 ± 6.8°であ り(p<0.001)、術後-3.7 ± 5.8°、-14.8 ± 5.1°と 前弯を獲得した(p<0.001)。一方で、術前 O-C2angle は低後弯群で-20.5 ± 6.5°、高後弯群で-13.1 ± 2.8°であり(p=0.002)、術後-12.6 ± 6.4°、-7.7 ± 4.3°と増加した(p=0.04)。ΔC2-7angle は ΔT5- T12angele と ΔO-C2angle とそれぞれ負の相関を認 めた(r=-0.298、r=-0.332)。
【結論】 適切な胸椎後弯を形成することで頚椎の前弯化を 獲得することができ、水平視を保つため O-C2 角は 代償的に増加する。
24.思春期脊柱側弯症の矯正手術におけるトラネキサム酸投与の有用性の検討
 
山口労災病院 脊椎・脊髄外科1
山口大学 整形外科2
 
永尾 祐治(ながお ゆうじ)1、寒竹 司 1、池田 裕暁1、丘 雄介 1、富永 俊克 1、田口 敏彦 1、今城 靖明 2、鈴木 秀典 2、西田 周泰 2、舩場 真裕 2、坂井 孝司 2
 
【目的】思春期脊柱側弯症の矯正手術におけるトラネキサム酸(TXA)投与の有用性について後ろ向きに検討したので報告する。
【対象及び方法】対象は思春期脊柱側弯症にて後方矯正固定術を施行し,術中に TXA 投与を行った 10 例と,対照群として年齢,性別,カーブタイプ,術前 Cobb 角,手術時間をマッチングさせた,TXA 非投与手術症例 10 例の合計 20 例(男性 6 例,女性 14 例,平均年齢 14歳,術前平均 Cobb 角 70 度,平均手術時間 419 分)とした。TXA 投与は,皮膚切開前に 10mg/kg を 20分かけて初期負荷静注し,1mg/kg/hr.で皮膚縫合終了まで持続投与した。検討項目は術中出血量,輸血量,合併症とし,TXA 投与群と非投与群の 2 群間で有意差を検討した。
【結果】平均出血量は 749g,平均輸血量(自己血)は 500gで,TXA 投与量は平均 705mg であった。平均出血量は TXA 投与群で平均 562.5g,非投与群で平均 936.2gと TXA 投与群で少ない傾向を認めたが,有意差はなかった。平均輸血量の比較では TXA 投与群で平均
152.5g,非投与群で平均 847.2g と TXA 投与群で有意に少ない結果であった。両群ともに合併症は認めなかった。
【まとめ】思春期側弯症の矯正手術においても,TXA 投与は術中出血対策に有効である可能性が示唆された。
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