1.転移性脊椎腫瘍に対する最小侵襲脊椎安定術(MISt)の有用性 九州大学 整形外科1、九州大学病院別府病院 整形外科2 幸 博和(さいわい ひろかず)1、松本 嘉寛1、川口 謙一1、岡田 誠司1、林田 光正1、松下 昌史1、飯田 圭一郎2、播广谷 勝三2、中島 康晴1 【目的】転移性脊椎腫瘍に対する最小侵襲脊椎安定術(MISt)の有用性を検討する。 【対象・方法】2010年1月から2018年6月までに転移性脊椎腫瘍に対して後方除圧固定術を施行した42例を対象とした。検討項目は、年齢、性別、SINS スコア、手術時間、術中出血量、固定椎間数、周術期合併症、離床までの日数、麻痺の改善、腰背部痛の推移とし、MIStを施行した14例(MISt群)と従来式後方除圧固定術を施行した28例(open群)の2群に分けて比較検討した。 【結果】SINSスコアはMISt群11.7点、open群11.3点で両群に有意差はなかった。術中出血量は有意にMISt群で少なく(MISt群:166.3ml、open群:834.8ml、p<0.01)、手術時間もMISt群で有意に短かった(MISt群:197.2分、 open群:243.6分、p<0.05)。離床までの日数はMISt群で短い傾向にあったが、有意差はなかった(MISt群:2.33日、open群:3.10日)。Frankel分類で1 段階以上の麻痺改善を認めたのはMISt群で6例(42.8%)、Open群で12例(42.8%)であった。 【考察】MISt は転移性脊椎腫瘍に対しても手術侵襲が少ない手術手技であり、最適な手術方法であると考えられた。 |
2.当院の転移性脊椎腫瘍に対する対策 佐賀大学 整形外科 戸田 雄(とだ ゆう)、森本 忠嗣、平田 寛人、吉原 智仁、前田 和政、園畑 素樹、馬渡 正明 近年、がん治療薬の進歩に伴い、担がん患者の予後は改善しており、脊椎に転移したまま生存する患者は少なくない。脊椎転移に対する集学的治療が脊椎転移由来の骨関連有害事象を予防することが先行して報告されており、当院でも2016年8月より放射線科やリハビリ科との連携による早期発見・治療を主体とした集学的脊椎転移対策を開始した。 2016年8月 ~ 2018年7月までに346例の骨転移例が登録され、そのうち22例にがん脊椎転移に対する手術を行った(対策あり群)。登録開始前(2015年1月 ~ 2016年7月)にがん脊椎転移に対する手術を行った12例(対策なし群)と、対策あり群で手術時の麻痺の状態(改良Frankel分類)および緊急手術の有無について調査した。対策なし群では改良FrankelA 1例、B1例、C以上が10例で緊急手術は2例であった。対策あり群では改良Frankel分類ではB3 1例、C 以上が21例で緊急手術1例であった。集学的骨転移対策を講じることにより早期発見・治療に寄与し転移性脊椎腫瘍患者の麻痺に対する緊急手術例は減少し、QOLを保つことができていた。 |
3.転移性脊椎腫瘍の予後予測に関する指標の問題点 長崎労災病院 整形外科 佐保 明(さほ あきら)、馬場 秀夫、奥平 毅、山口 貴之、今井 智恵子、小西 宏昭 【はじめに】転移性脊椎腫瘍は麻痺や脊椎の不安定性、疼痛などによりADLの低下をもたらすため、手術加療を選択することも多い。当院での手術成績を検討し、手術適応を判断する際の指標について検討した。 【方法】当院で2008 年6 月以降に転移性脊椎腫瘍に対する手術加療を行い、術後6ヶ月以上経過観察可能(6ヶ月未満で死亡した症例は死亡時点まで)であった70例を後ろ向きに検討した。原発巣、徳橋スコア、手術方法、手術時間、出血量、合併症、術後生存率を検討した。 【結果】本研究では、徳橋スコア別の術後生存率が0 ~ 8点と9 ~ 11点で逆転する結果となった。この結果は、本研究では分子標的薬を主として2013年以降の0 ~ 8点で使用しており、その影響と考えられた。徳橋スコアは汎用性が高く、追試による良好な結果報告が多いが、近年の治療法の進歩などの現実にそぐわなくなったという指摘もあり、より簡便で早期に診断可能な生命予後予測に関する指標の検討が望まれる。 |
4.当院における転移性脊椎腫瘍の実態 川崎医科大学 脊椎災害整形外科 内野 和也(うちの かずや)、中西 一夫、渡辺 聖也、射場 英明、長谷川 徹 【目的】当院では、転移性脊椎腫瘍に対してリエゾン治療を行っている。このリエゾン治療の有用性について症例の多い肺がん、乳がんについての成績を調べた。 【対象患者及び検証項目】2013年12月 ~ 2017年12月までに転移性脊椎腫瘍を認めた肺がん116例、乳癌140例の256例を対象とした。 年齢、性別、他臓器転移の有無、脊椎転移の数、骨転移( 背骨以外)、SINS 0 ~ 6 と7 以上、麻痺の有無、PS 0 ~ 1と2以上を、カプランマイヤー法を用いて統計解析をした。 【結果】平均年齢は肺がん71歳、乳がん60歳。性別は肺がん男性86例、女性30例、乳がんは全例女性。他臓器転移は肺がん99例、乳がん95例。肺がん・乳がん共に肺肝転移の有無、脊椎転移の数、SINS、麻痺の有無では平均生存期間に有意差は認めなかった。肺がんのPSで生存曲線に有意差を認めた。また乳がんは年齢が54歳以下と55歳以上で有意差がみられた。 【考察】肺がんではPS、乳がんでは年齢で平均生存期間が有意差を認めた。 ステージごとに生存率は下がっていくので進行する前に早期発見、早期治療することが大切だと分かった。 |
5.O-arm navigation を用いて経皮的椎弓根スクリューによる脊椎固定を行った転移性脊椎腫瘍の3例 岡山労災病院 魚谷 弘二(うおたに こうじ)、藤原 吉宏、山内 太郎、田中 雅人 今回当院で、脊椎転移に対してO-armを用いた脊椎固定術を行った3例について報告する。 【症例1】62歳女性、乳がん。全身の痛みを主訴に受診し、多発脊椎転移を指摘された。第4頚椎で脊柱管内進展を認め、外側アプローチによる後方固定を行った。 【症例2】69歳男性、腎がん。肺、骨転移に対するRT等が施行されていた。歩行障害が出現し、第7胸椎転移による後索障害によるものと診断され、PPSによる後方固定と椎弓切除を行った。 【症例3】83歳男性、前立腺がん。軽作業中に激しい腰痛を発症し受診。第3 腰椎転移の圧迫骨折の診断となり、PPSによる後方固定術を行った。 3例とも術後疼痛は緩和し半年以上の経過で歩行可能であった。スクリューは全て逸脱なく挿入されていた。2例でnavigation下に経椎弓根的に生検を行った。平均手術時間は169分、平均出血量は713mlであった。 脊椎転移ガイドラインでは疼痛や麻痺が出現した症例で手術が推奨されている。O-arm navigationを使用することでイメージフリーに、より正確にPPSが挿入でき、経椎弓根的生検も施行しやすくなると考えられる。 |
6.乳癌頚椎転移に対してC-arm freeで施行したMICEPSの1例 岡山労災病院 藤原 吉宏(ふじわら よしひろ)、魚谷 弘二、山内 太郎、田中 雅人 転位性脊椎腫瘍の1 例を報告する。 【症例】62 歳の女性。誘因なく頚部痛、腰部痛発症した。疼痛が激しくなり発症後3 カ月当院初診した。腰椎前屈制限を認めたが、筋力低下、感覚障害は認めなかった。CTで頚胸腰仙骨、肋骨、胸骨に多発溶骨性変化、MRIとPETで多発性の骨転移を認めた。C4での麻痺の切迫に対してC-arm freeでC2,3,5,6をMICEPS 法で固定し、同時にC-arm free でTh10生検術も施行した。手術時間は3時間23分、出血量は1270mlであった。乳癌骨転移の診断でランマーク開始し術後3週で自宅退院した。現在術後1年で独歩に手外来にて外来通院中である。 【考察】近年では転位性脊椎腫瘍に対してMICEPS による椎弓根スクリュー固定が主流となってきている。ナビゲーション使用することでC-arm freeでMICEPSが可能であり、有用な方法と考えた。 |
7.複合現実技術を用いた術前計画と脊椎腫瘍手術への応用 広島大学大学院 整形外科学 森迫 泰貴(もりさこ たいき)、中西 一義、亀井 直輔、中前 稔生、土川 雄司、原田 崇弘、安達 伸生 【目的】仮想現実(VR) や拡張現実(AR) 技術を活用した術前のシミュレーションや脊椎手術ナビゲーションへの機運が高まっている。この技術を脊椎腫瘍手術の術前計画と、術中のナビゲーションに応用したので報告する。 【方法と結果】 症例1 73歳男性、3ヵ月前から右後頭部~顎部の疼痛、しびれ感を来した。近医で頚椎ダンベル腫瘍と診断、当科紹介受診。MRI でC2-3 高位で脊柱管内外に腫瘍を認めた。CT 血管造影画像を3D 構成し、HoloeyesXRでVR/MRアプリを作成し術前に椎弓切除範囲を計画した。術中にMicrosoft HoloLensを用い椎弓切除し、腫瘍核出術を行った。椎間関節を温存でき、脊椎固定術は不要であった。 症例2 14歳男性、2週間前より進行する両下肢麻痺による歩行障害を来した。近医MRIでT4椎体、右椎弓根、椎弓に進展する腫瘍による脊髄の圧迫を指摘され当科紹介受診。VR/MRアプリを作成して術前に正常のT3、T5椎弓を含めて椎弓切除範囲を計画した。腫瘍切除術と後方固定術を行った。術後両下肢麻痺は改善した。 【考察】VR、AR 技術は脊椎腫瘍の手術の術前計画、術中ナビゲーションに対して有用と考える。 |