第88回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題5)


26.超高齢者(>90歳)における頚椎症性脊髄症の手術治療成績
 
岡山大学 整形外科
 
森田 卓也(もりた たくや)、瀧川 朋亨、塩崎 泰之、三澤 治夫、尾崎 敏文
 
【目的】90歳以上である超高齢者患者の頚椎症性脊髄症(CSM)における椎弓形成術の治療成績を検討することを目的とした。
【対象・方法】2011年~2015年にCSMと診断され椎弓形成術(平林法)を行われた1297例のうち、手術時年齢が90歳以上であった15例(H群;男性4例、女性11例)と60歳代の15例(L群;男性9例、女性6例)を対象とし比較検討を行った。岡山大学整形外科脊椎グループのデータベースを用いて抽出を行った。
【結果】平均年齢はH群91.4歳、L群65.5歳で、術後合併症はH群の3例にせん妄を認めるのみであった。転院を除く平均入院期間はL群で有意に短く、術中評価項目に有意差は認めなかった。またJOAscoreは術前平均H群7.3、L群9.0で術後平均H群9.4、L群12.9で両群共に術後有意に改善していた。平均JOA改善率はH群33%、L群40%で有意にL群が高かった。
【考察】JOA改善率はH群で低かったが、術前後でJOA scoreは有意に改善し、術後合併症はせん妄のみであったことを考慮すると、適応は慎重に選択する必要はあるが、90歳以上のCSMに対する椎弓形成術は有用な治療法である。
27.頚髄症を伴った首下がり症候群の一例
 
浜脇整形外科病院
 
竹内 慶法(たけうち よしのり)、大石 陽介、村瀬 正昭、土居 克三、浜脇 純一
 
【はじめに】今回我々は頚髄症を伴った首下がり症候群を経験したので、文献的考察を含めて報告する。
【症例】83歳女性。5年前から首下がりが生じ、2年前から歩行障害が出現した。4ヵ月前から症状増悪したため、当院に紹介となった。来院時、歩行は介助が必要であり、巧緻運動障害も認めた。また、頚部は自力で後屈が不可能であり前方注視ができなかった。
【経過】頚髄症を伴う首下がり症候群と診断し、手術加療を行った。頚髄症に対しては除圧を目的にC3-6椎弓形成術、首下がり症候群に対しては荷重バランスの矯正・前方注視障害の改善を目的にC0-Th9後方固定を計画した。術前後のX線評価はO-C2角は37°→ 34°外耳孔からのplum lineは術後胸骨前方→後方へ移動した。術後の外固定はパンツェルン装具を使用し、術後4ヵ月でT字杖歩行、室内独歩で自宅退院となった。
【考察】頚髄症を伴った首下がり症候群に対して、手術を行い良好な結果を得たが、経過中に生じた問題点について報告する。
28.当院における75歳以上中下位頸椎疾患に対する椎間固定術の検討
 
長崎労災病院 整形外科
 
田丸 満智子(たまる みちこ)、馬場 秀夫、吉田 周平、山口 貴之、奥平 毅、原 真一郎、小西 宏昭
 
【背景・目的】後期高齢者に対する頸椎固定術の適応については、患者個々の状態に合わせ慎重に決定される。75歳以上の中下位頸椎疾患に対し椎間固定術を施行した症例について検討を行った。
【対象と方法】当院で2012年以降、外傷および感染を除く中下位頸椎疾患に対し椎間固定術を行った75歳以上の18症例を対象とした。疾患の内訳はすべり症11例、すべりを伴わない後弯症2例(うち1例MOB)、後縦靭帯骨化症3例、頸椎椎間板ヘルニア、頸椎症性神経根症が各1例であった。これらに対し術式、術中および術後合併症の有無について検討した。
【結果】後方固定13例、前方固定5例施行した。術中の合併症はなく、術後肺血栓塞栓症1例、再灌流障害1例、screw loosening2例、screw挿入位置不良 (症状なし)1例であったが、その他の症例はおおむね経過良好であった。
【考察】高齢者に対する椎間固定術は合併症発症率も決して高くなく、有用な方法であった。
29.脊髄腹側に発生した巨大嚢胞性疾患(Neurenteric cyst)に対する摘出術の経験
 
広島市立安佐市民病院 整形外科
 
中尾 和人(なかお かずと)、 藤原 靖、泉 文一郎、大田 亮、角西 寛、原田 崇弘、吉田 友和、西森 誠、真鍋 英喜
 
 Neurenteric cystは胎生期の外胚葉と内胚葉の分離不全によって生じる巨大嚢胞性疾患で、増大すると脊髄症状を呈し、手術的加療を要する。今回我々は当科で経験した5例のNeurenteric cystの手術成績について検討したので報告する。初回手術4例の内3例は片開き式椎弓形成術によって全摘出し、術後再発は認めていない。1例は片側椎弓切除術を行い、部分摘出に留まった。術後3ヶ月時点で再発を認め、術後6年の現在症状は軽快しているがcystは残存している。他院術後再発の1例は片側椎弓切除にて部分摘出され、術後4ヶ月時点で再発を認め、症状が強い為当院で片開き式椎弓形成術を施行し、嚢胞を摘出した。当院摘出術後2年の現在再発は認めていない。片側椎弓切除術で摘出した症例では部分摘出しか施行できず、再発を認めている反面、片開き式椎弓形成術で摘出し た症例では、再発例は無く、後方摘出に際しては片開き式椎弓形成術が推奨される。
30.Intramedullary neurenteric cystの治療経験
 
熊本大学 整形外科*1、熊本大学 脳神経外科*2、熊本整形外科病院 整形外科*3
 
藤本 徹*1(ふじもと とおる)、秀 拓一郎*2、米嵩 理*3、谷脇 琢也*1、岡田 龍哉*1、中村 孝幸*1、水田 博志*1
 
【はじめに】比較的稀であるIntramedullary neurenteric cystの2症例を経験したので報告する。
【症例1】12歳男児。頚部から肩にかける痛みを主訴に近位受診された。両上肢にMMT4の筋力低下を認め,頚椎MRIにてT1は髄液よりやや高輝度、T2は高輝度の髄内嚢腫性病変を認めた。neurenteric cystを疑い後方嚢腫切除を行い一旦は嚢腫縮小したが再発確認され、さらに2回の前方嚢腫切除と1回の後方嚢腫切除を受け現在麻痺は改善し経過観察となっている。
【症例2】5歳男児。右頚部から肩にかけての痛みを自覚され右上肢にMMT2の筋力低下認めMRIにて同様の頚髄々内嚢腫性病変が確認できた。1週間の安静にて疼痛と麻痺は改善したため経過観察とし、5か月後のMRIにて嚢腫の著名な縮小認めた。
【考察】神経腸嚢腫:neurenteric cystは消化管様あるいは呼吸器様の上皮を膜に有する脊柱管内嚢胞で頚髄腹側に好発する。脊索形成期に閉鎖吸収されるはずのneurenteric canalが遺残し内胚葉と外胚葉が様々な異形成をきたし嚢腫を形成する。髄内発生例は脊髄の不可逆的変化が起きる前に嚢腫摘出が必要となるが再発例の報告もある。今回の症例2の様な自然縮小例は報告がないが経過観察は必要と考えている。
31.脊柱管内硬膜外占拠性病変の鑑別診断にPETMRIが有用であった3例
 
九州大学病院 整形外科
 
幸 博和(さいわい ひろかず)、松本 嘉寛、川口 謙一、岡田 誠司、林田 光正、松下 昌史、中島 康晴
 
【はじめに】硬膜外に生じる占拠性病変として、腫瘍、嚢胞、血腫、膿瘍、椎間板ヘルニアなどが挙げられる。我々は、四肢の神経痛の精査にて硬膜外腫瘍が疑われたが、PET-MRIにて血腫や椎間板ヘルニアと診断された3例を経験したので報告する。
【症例1】69歳男性。後頚部から右肩にかけての激痛にてMRI施行され、C3/4脊柱管内に腫瘍性病変を認めた。
【症例2】60歳男性。左臀部痛にてMRI施行され、L5/S1脊柱管内に腫瘍性病変を認めた。
【症例3】71歳男性。右下肢後面の痛みのためMRI施行され、右L5/S1レベルからS1神経根に沿うように腫瘍性病変を認めた。
【結果】3症例ともPET-MRIにて硬膜外占拠性病変におけるFDG集積は軽度であり、血腫および椎間板ヘルニアの診断となった。その後、いずれも経過観察とし、症状は軽快した。
【考察】硬膜外占拠性病変が腫瘍である場合、強い神経症状を有する症例では手術による腫瘍摘出が第一選択となる。一方で、椎間板ヘルニアや血腫の場合には保存治療も考慮される。この両者の鑑別のためのPET-MRIは治療方針を決定する上で非常に有用な検査であると言える。
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