第88回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題3)


13.頚椎術後の髄液漏により頭蓋内硬膜下水腫を生じた1例
 
琉球大学 整形外科
 
島袋 孝尚(しまぶくろ たかなお)、比嘉 勝一郎、金城 英雄、金谷 文則
 
【症例】27歳、女性。未熟児脳症による精神発達遅滞の既往があり5年前より両下垂足、3年前より両手指巧緻運動障害が出現していたが放置されていた。6ヵ月前に自宅で転倒し、頚部痛及び歩行困難のため当科を受診した。単純X線像とCTにて頚椎奇形(環椎後弓欠損、歯突起骨、C2-7椎体癒合・椎弓奇形)に伴う環軸椎亜脱臼を認め、MRIにてC1/2レベルでの脊髄の圧迫、髄内高輝度変化を認めた。環軸椎亜脱臼による頚部痛、四肢不全麻痺と診断し、Magerl法を用いた環軸椎後方固定術を施行し、C1/2椎間関節には腸骨移植を行った。術中剥離操作時に髄液漏を認めフィブリン糊塗布を行ったが、術後、創部からの髄液漏が持続し、頭痛、嘔吐も出現した。頭部CT にて低髄液圧症によると思われる硬膜下水腫を認めたため、初回術後18日目、髄液漏閉鎖術を行った。術後、頭痛、嘔吐改善し、術後6ヵ月のCTで硬膜下水腫は消失した。
 術後1年3ヵ月で環軸関節の骨癒合が得られたが、術前の四肢不全麻痺は残存している。
14.頚椎前方固定術の翌日に上気道閉塞を生じた1
 
JCHO 宇和島病院 整形外科
 
藤田 勝(ふじた まさる)、河野 宗平、友澤 翔、冨永 康浩、藤井 充、松田 芳郎、渡部 昌平
 
【症例】55歳 男性 頚髄症に対してC56,67の前方除圧固定術(腸骨、椎間板スペーサー、プレート固定)を施行した。手術時間は2時間55分、出血量は75g。手術後は問題なく抜管したが、翌日の昼頃から息苦しさ、吸気性喘鳴が出現した。SaO2の低下はなかったが、かなり呼吸苦が強くなり緊急CT撮影し、後咽頭の腫脹、気管の狭窄を認めた。術後血腫を疑い、ファイバー挿管し創部確認をした。挿管時、後咽頭の著明な腫脹を認めた。創部に血腫はなく軟部の浮腫による狭窄と診断した。術後は経鼻挿管下T-tube、自発呼吸で経過観察し、浮腫予防にソルメドロール500mgを3日点滴した。2日目にカフリークテスト陽性、3日目に後咽頭の腫脹の軽減をレントゲンで確認し抜管した。
 頚椎前方術後気道閉塞は再挿管が困難となり窒息することがあり注意が必要である。今回の原因は浮腫であり、予防のためにステロイドの使用や、侵襲が大きい場合は、翌日にカフリークテストをして抜管したほうがよいと考えられる。
15.頸椎前方固定術後に発生した脊椎硬膜外血腫の2例
 
伊万里有田共立病院 脳神経外科*1、白石共立病院 脳神経脊髄外科*2
 
田中 達也*1(たなか たつや)、桃崎 宣明*1、本田 英一郎*2
 
【症例1】62歳男性。頚椎症性神経根症の診断にてC5/6,6/7前方固定術を施行。フロシールを用いて止血。術後より頸部痛あり、夜、左上下肢麻痺出現。頸椎MRI撮影し、脊椎急性硬膜外血腫と診断。緊急手術にて前方アプローチにて血腫除去を行い、麻痺軽快。
【症例2】69歳男性。右C5領域の難治性疼痛あり、頚椎症性神経根症の診断にてC5/6前方固定術を施行。既往歴に脳梗塞があり、クロピドグレルを術前1週間前より休薬。円筒状ケージ2個を用いた前方固定術を施行。術中、右外側の静脈叢を凝固切断し、C5神経根の除圧を確認。アビテンを用いて止血を確認し、椎体前面にドレーンを留置し、手術終了。16:00 帰室、疼痛なく、四肢麻痺なし、BP150/92。17:00より右肩痛出現、17:30 増強。17:45 右肩痛継続、対麻痺、感覚障害あり、BP191/98。鎮痛、降圧を行った。18:00 頸椎MRI撮影し、脊椎急性硬膜外血腫と診断。18:15 MRI撮影中に対麻痺、感覚障害改善。
16.頚椎椎弓形成術後のせん妄に対するリスク因子について
 
香川労災病院 整形外科
 
渡邉 典行(わたなべ のりゆき)、荒瀧 慎也
 
【目的】今回我々は頚椎椎弓形成術後のせん妄について検討した。
【対象】平成26年10月~平成29年9月までに当院で施行した頚椎椎弓形成術60例を対象とした。疾患内訳は頚椎症性脊髄症46例、頚椎後縦靭帯骨化症14例であり、男性42例、女性18例、手術時平均年齢は68.4歳(35~88歳)であった。これらの症例に対して、年齢、性別、既往症、ICU管理の有無と術後せん妄の有無について検討を行った。術後せん妄の定義はDSM-5の診断基準を用いた。
【結果】60例中、術後せん妄は9例に認めた。男性が7例で女性が2例であった。年齢別では60歳代で1例(5.6%)70歳代で6例(22.2%)80歳代で2例(40%)であった。既往症についてはせん妄を認めた9例中6例に高血圧症、4例に糖尿病を認めた。術後ICU管理であった9例中2例にせん妄を認めた。
【考察】70歳以上の高齢者や高血圧症や糖尿病などの既往症、周術期の環境はせん妄のリスク因子と考え、周術期の介入を行う必要があると考えた。
17.当院での頚椎前方固定術の治療成績と合併症
 
徳島市民病院 整形外科
 
竹内 誠(たけうち まこと)、千川 隆志、松村 肇彦、鹿島 正弘、吉岡 伸治、中村 勝、中野 俊次
 
 今回我々は、2010年から2016年の7年間、当院で施行した頚椎前方固定術71症例の治療成績を検討したので報告する。
 年齢は26歳から87歳、平均53.1歳で、性別は男性43例、女性28例であった。
 疾患の内訳は、頚椎椎間板ヘルニア27例、頚椎症性脊髄症20例、頚椎OPLL10例、頚椎症性神経根症、化膿性脊椎炎・外傷(頚髄損傷、C5 脱臼骨折)・透析性破壊性脊椎関節症それぞれ各3例、頚椎変性すべり2例であった。
 固定範囲は1椎間19例、2椎間40例、3椎間40例、2椎間前方固定+後方除圧1例であった。
 検討項目として、術前後のJOA scoreと改善率、骨癒合率、術後合併症、再手術例を調査したので報告する。
18.片開き式頚椎椎弓形成術(伊藤・辻法)の術後椎弓拡大について
 
広島市立安佐市民病院 整形外科
 
泉 文一郎(いずみ ぶんいちろう)、藤原 靖、大田 亮、角西 寛、原田 崇弘、中尾 和人、真鍋 英喜
 
【はじめに】当院では伊藤・辻法にならい、自家骨スペーサーを1椎間おきに移植して顕微鏡視下片開き式椎弓形成術を行っている。今回頚椎アライメントや椎弓スペーサーの有無による椎弓拡大、再閉鎖の違いを検討した。
【方法】4年間に同一術者が施行し術後6か月以上画像調査可能であった73例を対象とした。術前(P)、術直後(A)、最終調査時(F)の脊柱管前後径(APD)を計測し、APD(A-P)を“術直後椎弓拡大”、APD(F-P)を“最終椎弓拡大”、APD(F-A) を“椎弓再閉鎖”とした。
【結果】椎弓拡大不良・再閉鎖とJOAスコアに相関はなかったが、高度前弯例と後弯例で椎弓拡大不良が多かった。スペーサー非使用椎弓では術直後椎弓拡大3mm未満、最終椎弓拡大3mm未満が使用椎弓より有意に多かったが、椎弓再閉鎖には差が無かった。
【考察】高度前弯例や後弯例のスペーサー非使用椎弓では椎弓拡大が不良な傾向があり、臨床成績には差はないものの注意が必要と考えられた。
19.頚椎椎弓形成術・椎弓切除術後の動的脊柱管狭窄による再手術例の検討
 
広島市立安佐市民病院 整形外科
 
藤原 靖(ふじわら やすし)、真鍋 英喜、泉 文一郎、大田 亮、角西 寛、原田 崇弘、中尾 和人、吉田 友和、西森 誠
 
【はじめに】頚椎椎弓切除術・形成術術後に動的脊柱管狭窄を生じ再手術した3例を検討した。
【症例】初回手術の内訳は、1例目は片開き式椎弓形成術後椎弓再閉鎖に対する椎弓切除術、2例目は椎弓スペーサーを用いない観音開き式椎弓形成術、3例目は片開き式椎弓形成術(伊藤・辻法)であった。全例で術後も頚椎伸展時の四肢へのしびれが持続していた。1、2例目は80歳代で、頚椎がほとんど伸展できず強い後彎位を呈しており、運動麻痺も進行し歩行不能であった。3例目は30歳代で、仕事で長時間上を向くとしびれが増強するが運動麻痺は無かった、全例中間位MRIでは除圧良好だが、動態CTMにて頚椎伸展位で脊髄が背側から圧迫されていた。1、2例目は頚椎後方固定術、3例目は黄色靱帯切除を追加して症状改善が得られた。
【考察】頚椎椎弓切除術・形成術では安定した術後成績が得られるが、まれに成績不良例もあり、今回報告したような動的狭窄が関与している可能性がある。特に椎弓切除術やスペーサーを用いない観音開き式椎弓形成術では注意が必要と考える。
20.下位頚椎の前弯が少ない例では,片開き式頚椎椎弓形成術後の拡大椎弓再閉鎖を起こす
 
香川大学整形外科*1、さぬき市民病院整形外科*2
 
小松原 悟史*1 (こまつばら さとし)、有馬 信男*2、藤原 龍史*1、山本 哲司*1
 
【はじめに】片開き式頚椎椎弓形成術後の拡大椎弓の再閉鎖について検討したので報告する。
【対象と方法】頚髄症に対して、片開き式頚椎椎弓形成術を行い、術後1年以上経過観察可能であった99例について検討した。術後T2矢状断MRI画像で、くも膜下腔の消失以上の圧迫があるものを圧迫ありとして、圧迫の有無と閉鎖角について、ROC曲線を描出し、Youden indexで閉鎖角のcut off値を求めた。Cut off値は15.9°で、拡大椎弓の閉鎖角が16°以上の再閉鎖群(RC群、n=8)、16°未満の非閉鎖群(NC群、n=91)の2群に分けて検討した。JOAスコア(術前、最終診察時、改善率)、術前単純X 線側面像でC2-7角、C2-4角、C5-7角、T1 slope、C2-7 SVAを評価した。
【結果】手術時平均年齢、術前JOAスコア、改善率は2群で差がなかったが、最終診察時JOAスコアはRC群で有意に低値であった。C2-7角はならびにC5-7角はRC群でいずれも有意に低値であった。C2-4角、T1 slope、C2-7 SVAは2群間に差がなかった。
【考察および結論】術前の頚椎アライメントから椎弓形成術後の再閉鎖が予測されるかを検討した。再閉鎖群では術前の前弯が少なく、特に下位頚椎の前弯の少なかったことが明らかになった。
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