第87回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題6)


42.びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)による脊椎後弯変形患者が急変時に心臓マッサージを受けると脊椎はどうなるか?

高知医療センター 整形外科

枦元 佑大郎(はぜもと ゆうたろう)、時岡 孝光、林 隆宏

高齢化に伴い、びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)患者の脊椎外傷が増加している2例のDISH症例が仰臥位で蘇生術を受けて特徴的な脊椎骨折となった経験をした。
【症例1】84歳女性.突然の意識消失で仰臥位で心肺蘇生術を受けた。一旦蘇生されたが死亡した。CTではTh9の骨折(AO分類B3 Hyperextension type)を認めた。
【症例2】92歳女性. 突然の意識消失で仰臥位で蘇生術を受け、一旦蘇生したが死亡した。CTではくも膜下出血とTh11骨折(AO分類B3)で、Th11とTh12間で前縦靭帯が断裂し、前方が大きく開いていた。
【考察】DISHによる脊椎骨折は軽微な動きで脊髄損傷を起こし、手術体位が問題となっている。今回の結果から、後弯を伴ったDISHの脊椎骨折は腹臥位よりも側臥位が適していると考えられる。
43.頚椎椎弓根スクリュー挿入時のナビゲーション誤作動防止の工夫

高知医療センター 整形外科

時岡 孝光(ときおか たかみつ)、林 隆宏 

【目的】最小侵襲頚椎椎弓根スクリュー固定術(MICEPS)の手技を改良し、ナビ誤作動を補正するようにした。
【方法】外側塊をダイアモンドバーで掘削し、J-Probeで椎体後縁まで達し、斜位透視の軸写で椎弓根内にprobe先端が収まっているのを確認する。ここでJ-probeの内筒を抜いて1.4mmのK-wireを挿入し、PSを挿入した。対象は初期群が2011年から2016年3月にナビでMICEPSを施行した98例(男64、女34)、新手技群は38例であった。
【結果】初期群では216本のスクリューが挿入され、内側逸脱が4本(逸脱率1.9%)であったが、新手技では90本が挿入され、1本の内側逸脱(逸脱率1.1%)であった。神経血管系合併症はいずれもなかった。
【考察】本法は直視化に椎間関節が確認でき、J-ProbeとK-wireで斜位透視下にPS挿入を容易にし、ナビの誤作動を補正できた。最近では中空螺子をマーカーとして挿入後術中CT撮影し、ナビの誤差を確認している。
44.腹臥位脊椎手術後の視力障害の2例

大分整形外科病院

瀧井 穣(たきい ゆたか)、大田 秀樹、松本 佳之、中山 美数、巽 政人、佐藤 芳里 

【はじめに】脊椎腹臥位手術後の視力障害は稀ではあるがきわめて重大な合併症である。当院で経験した2例を報告する。
【対象】過去10年間に施行した脊椎腹臥位手術は4940例。そのうち頸椎後方除圧術を施行した2例に術後視力障害を認めた。
【症例】症例1、49歳。男性。CDHに対し椎間孔拡大術を施行。手術時間129分、出血量50g。頭部は馬蹄で固定し、手術開始前に眼球の圧迫がないことを確認。術直後より右眼の視力消失を自覚していたが、看護師へ報告したのは3時間後であった。同日眼科に搬送し網膜中心動脈閉塞症の診断でステロイドパルス療法等行ったが回復せず。症例2、63歳。男性。CSAに対し後方椎間孔拡大術を施行。手術時間82分、出血量100g。頭部は馬蹄で固定し、手術開始前と術中30分毎に眼球圧迫がないことを確認。手術直後より右眼の視力低下の訴えあり。同日緊急に眼科受診し虚血性視神経炎お疑いでステロイドパルス療法施行し矯正視力0.6まで回復。
【考察】脊椎腹臥位手術における眼合併症の発生頻度は0.028%~0.2%と言われている。原因として虚血性視神経炎、網膜中心動脈閉塞症などが挙げられ、リスクとしては腹臥位手術、長時間手術、大量出血、貧血などがある。予防策は眼球の保護などが考えられる。
【結語】脊椎腹臥位手術に於いては眼合併症にも留意する必要がある。
45.頚椎前方固定術後に嚥下障害を生じた2例

三豊総合病院 整形外科1)、徳島大学 整形外科2)

竹内 誠(たけうち まこと)1)、長町 顕弘2)、阿達 啓介1)、井上 和正1)、玉置 康晃1)、大道 泰之1)

【はじめに】頚椎前方固定術後に嚥下障害を生じた2例を報告する。
【症例1】52歳男性。頚椎症性脊髄症に対してC4-7前方固定術を施行。術後翌日抜管後嗄声あり、2日目に嚥下障害が生じた。内視鏡で咽頭後壁の膨隆による狭窄がみられた。頸椎MRIでは椎体前面の血腫が疑われた。咽頭後壁の腫脹が改善するにつれ、術後18日目には飲水、20日目には嚥下食摂取が可能となった。術後56日目に誤嚥のないことを確認し退院。術後1年、軽い嗄声の残存はあるが嚥下障害は認めない。
【症例2】65歳男性。C3-4前方固定術中に後咽頭壁を損傷した。術後翌日抜管後から嚥下障害が明らかになった。術後1週間のMRI検査で咽頭後壁膿瘍が明らかになり、10日目に内固定材抜去、郭清洗浄を行った。その後感染は治癒し、術後27日目より流動食、47日目より普通食を開始し誤嚥がないことを確認し退院。術後1年6か月、移植骨は骨癒合し嚥下障害は認めない。
【考察】頚椎前方固定術後の嚥下障害が生じたときは早急に原因究明し、適切な対処を行うことで改善が期待できる。
46.稀な要因による術中脊髄モニタリングの波形異常を呈した脊髄腫瘍の2例

高知大学医学部 整形外科

柳川 祐輝(やながわ ゆうき)、川﨑 元敬、田所 伸朗、葛西 雄介、喜安 克仁、武政 龍一、池内 昌彦 

【目的】今回、脊髄腫瘍摘出術中に稀な要因によって、経頭蓋電気刺激による術中脊髄モニタリングの複合筋活動電位(CMAP)の振幅低下を呈した2例を経験したので報告する。
【症例1】49歳男性。Th9-10高位に大小2つの硬膜内髄外神経鞘腫を認め、頭側の大きな腫瘍を摘出した直後から下肢の複数筋でCMAPの振幅が消失した。原因検索を行うと、頭側の腫瘍摘出により扁平化していた脊髄が膨隆し、新たに尾側の腫瘍が圧迫因子になったと考えられた。その腫瘍を切除後は早期に振幅が復元した。
【症例2】73歳女性。約9年前に頚髄髄膜腫摘出術を施行し、残存腫瘍の増大のため再手術となった。腫瘍切除後の硬膜形成中にCMAPの振幅がほぼ消失した。原因検索で器質的要因は認めず、腫瘍切除操作中に硬膜外での多量出血に伴う脊髄虚血が一因と考えられた。2例とも、術後の麻痺症状の悪化はなかった。
【考察と結語】脊髄モニタリングは、手術操作による脊髄・神経の損傷の他に、急性の脊髄圧迫や虚血に伴う異常も検出でき、術中合併症対策に有用である。
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