11.脊椎手術中に硬膜損傷をきたした症例検討 徳島市民病院 松村 肇彦(まつむら としひこ)、千川 隆志、中野 俊次、中村 勝、吉岡 伸治、鹿島 正弘、島川 建明、中川 偉文 【はじめに】脊椎手術中の硬膜損傷はしばしば遭遇する合併症の一つで、我々は過去2年間に術中硬膜損傷をきたした症例を検討し、その原因や対処法を考察する。 【対象・方法】2015年1月~2016年12月末までに脊椎手術を行った598例中、硬膜損傷をきたした28例を対象とし、原因・対処法等について調べた。 【結果】硬膜損傷の内訳は頸椎手術4例、胸椎1例、腰椎23例に見られた。術式は頸椎椎弓形成術3例 頸椎前方固定術1例、胸椎固定術1例、腰椎部分椎弓切除術10例、腰椎固定術9例、MED4例であった。 原因はケリソン、エアトームによる損傷、硬膜の癒着によるものであり、6-0プローリンや硬膜シート、フィブリン糊を用い修復を行った。術後に問題が生じたのは3例。髄液漏2例、深部感染1例であった。 【考察】硬膜損傷の発生率を德橋らは735例中58例(7.9%)、硬膜非切開手術後の髄液漏の発生率を加藤らは282例中3例(1.1%)であったと報告している。我々の症例では硬膜損傷は598例中28例(4.7%)、髄液漏はなかった。癒着を認めた場合は十分な視野確保や丁寧な剥離を心掛ける必要がある。 【まとめ】脊椎手術後の硬膜損傷28例を検討した。 |
12.内視鏡下椎弓切除術中に認められた硬膜癒着の検討 川崎医科大学 整形外科 射場 英明(いば ひであき)、中西 一夫、長谷川 徹 腰部脊柱管狭窄症(LCS)に対する内視鏡下椎弓切除術(MEL)の有用性は、すでに多くの報告がなされ、安全な技術も確立されてきた。しかし、3~5%の確率で硬膜損傷が発生し、いまだ予期せぬピットホールが存在する。硬膜損傷の原因としては、硬膜癒着によるものが多く、予防は慎重なプロービングに依存する。今回われわれは、LCSに対するMELにおいて硬膜損傷の原因となる硬膜癒着について検討した。症例は2016年に、当科においてLCSに対しMELを施行された48例で、評価項目は、年齢、硬膜癒着の有無、癒着の形状とした。癒着の形状については、硬膜と黄色靭帯が完全に癒着している直接型と、索状物が介在した間接型に分類した。全症例の平均年齢は70歳であった。硬膜の癒着が認められた症例は21例で、癒着の形状は、直接型が9例、間接型が12例であった。直接型の癒着の場合は、ブラインド操作でもボールプローベの挿入困難感があるので認識しやすいが、間接型の癒着では認識が困難で、硬膜損傷を惹起する可能性がある。 |
13.腰椎椎弓切除術後に馬尾の脱出を認めた一例 JCHO宇和島病院 整形外科 河野 宗平(こうの そうへい)、藤田 勝、渡辺 昌平、富永 康浩、藤井 充、松田 芳郎、友澤 翔 【はじめに】今回我々は腰椎椎弓切除後に馬尾の脱出を認めた一例を経験したので報告する。 【症例】症例は67歳男性、左下肢痛と間欠性跛行を認めた。腰部MRIにてL4/5高位に脊柱管狭窄症を認め、同部位の除圧術を行った。術中、黄色靭帯を切除する際に、約1㎜の硬膜損傷を起こした。くも膜が露出したが髄液漏はなく、そのまま閉創し手術を終了した。術後2日目、座位で誘発される強い左臀部痛を認めた。症状改善なく術後4日目に再手術を行うと硬膜損傷の拡大に伴う馬尾の脱出を認めたため、脱出した馬尾を還納し硬膜を2重縫合し、フィブリン糊を撒布した。術後症状は改善し、下肢症状なく座位、歩行が可能となった。 【まとめ】今回の経験から術中、硬膜損傷を認めた場合、損傷の大きさや髄液漏の有無にかかわらず修復する必要があると考える。 |
14.腰部脊柱管狭窄症術後に馬尾嵌頓を起こした2例 徳島大学 整形外科 手束 文威(てづか ふみたけ)、高田 洋一郎、森本 雅俊、林 二三男、山下 一太、酒井 紀典、長町 顕弘、西良 浩一 【症例提示】症例1:70歳男性、腰椎除圧固定術中に硬膜損傷を起こし、フィブリポリグリコール酸シートで被覆した。術後3日目に右臀部の激痛を認め、術後5日目に再手術を行った。馬尾が脱出し、椎間関節に陥入していた。馬尾を完納し、硬膜縫合を行った。症例2:71歳男性、他院で2椎間(L3/4/5)の除圧術を受けた。術後17日目にリハビリ中に右臀部の激痛が出現、その後より下垂足となった。術後2ヶ月が経過して行なった再手術時の所見は、絡まった状態で瘢痕化した馬尾が硬膜から脱出していた。可及的に完納し、硬膜縫合を行い、筋膜パッチを当てた。【考察】術後、新鮮な馬尾嵌頓と脱出後2ヶ月が経過して判明した馬尾嵌頓の2症例を経験した。症例2は片側のL5、S1神経根支配筋に高度の筋力低下を認めた。2例ともに共通して激痛を自覚しており、術中所見からは馬尾が椎間関節内に入り込んでいた。2例共にMRIでの術前診断は困難であったが、レトロスペクティブに確認すると症例2では脊髄腔造影後のCT検査で、馬尾脱出が確認できた。 |
15.硬膜内手術操作後の医原性気脳症に関する検討 独立行政法人 労働者健康安全機構 総合せき損センター 整形外科 益田 宗彰(ますだ むねあき)、芝 啓一郎、植田 尊善、前田 健、森 英治、弓削 至、河野 修、高尾 恒彰、坂井 宏旭、森下 雄一郎、林 哲生、松下 昌史、久保田 健介 【背景】脊椎外科手術において、硬膜切開・硬膜内操作を伴う処置は時に不可欠なものであるが、術後に生じる髄液漏と続発する頭蓋内の変化に関する検討は少ない。当センターでは硬膜内手術操作後に生じた頭蓋内出血のため、生命の危機に瀕した患者を経験したことから、硬膜切開が予定される手術においては術前術後の頭部CTの評価を行うこととした。今回は医原性気脳症に関する画像上の変化と術後低髄圧症状の関連性につき検討した。 【対象と方法】2016年3月から2017年3月までの間に、予定術式として硬膜切開・硬膜内操作を行った9例を対象とした。術前・術直後に頭部CT撮影を行い、気脳症の画像上の重症度、術後低髄圧症状の重症度に影響を及ぼす因子につき統計学的検討を加えた。気脳症の画像上の重症度に関する分類が既存しなかったため、新たに画像上の重症度を、0度から3度までの4段階に定義した。 【結果】対象患者の内訳は男性4名、女性5名であり、低髄圧症状は6例に認めた。症状消失までの平均期間は2.6日間(2日~9日間)であった。多変量ロジスティック解析では、術中出血量と術後低髄圧症状に緩やかな相関を認めた。【考察】過去の文献では髄液漏に続発する硬膜下出血は、注意すべき術後合併症として認識されているが、気脳症性変化に関する疫学的検討はまれである。術後低髄圧症状をありふれた合併症としてとらえるのではなく、重篤な合併症につながりうるものとしてとらえ、その適切な予防法を検討することが重要と考えられた。 |
16.頚椎手術中の硬膜損傷により頭蓋内硬膜下血腫と小脳出血を生じた1例 佐賀大学 整形外科 森本 忠嗣(もりもと ただつぐ)、前田 和政、馬渡 正明 頚椎手術中の硬膜損傷により頭蓋内硬膜下血腫と小脳出血を生じた1例を経験したので報告する。 【症例】47歳、男性。3歳時の交通事故により脳挫傷。精神発達遅滞、右上下肢の軽度の不全麻痺が遺残。 【現病歴】右上肢痛・しびれのため当院受診。環軸椎亜脱臼による頸髄症と診断し後頭頚椎固定術、環椎後弓切除を行なった。術中硬膜損傷のために硬膜を縫合した。手術終了後、麻酔覚醒は遅延し、抜管するも意識レベルの改善不良であった。頭部CTにて左急性硬膜下血腫と小脳出血と診断され開頭血腫除去手術が行なわれた。左前頭葉の脳表に3歳児の脳挫傷によるものと思われる瘢痕・癒着を認め、出血は同部からであった。術後7日目に意識覚醒し、徐々に神経障害も改善、術後2年の現在、右上肢痛は消失し神経障害も術前と同レベルとなった。 【考察】 脊椎手術中の硬膜損傷例(特に頭部外傷の既往例)は、合併症として頭蓋内出血が生じる可能性を念頭におき手術説明と周術期管理を行なう必要がある。 |