第100回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題③)【腰椎Ⅱ】


*15.20年以上にわたり難治性疼痛治療に難渋し続けた1例

久留米大学医学部整形外科学教室

横須賀 公章(よこすか きみあき)、佐藤 公昭、山田 圭、森戸 伸治、西田 優甫、髙橋 利宗、平岡 弘二

【症例】患者は62歳、女性。X年3月に左下垂足が出現し、当院初診、左TA・EHLの筋力低下あり。(MMT2)精査でL3前方辷り、L3/4椎間板消失、椎体終板の不整、L3/4レベル硬膜の圧排あり。診断は腰椎変性すべり症(L3)、治療としてL3/4 PLIF実施。術後に左TA・EHLの筋力改善傾向。術後5ヶ月目、中腰になった際に腰痛出現、その後左膝以下の倦怠感、左臀部・左大腿前外側痛が出現、体動困難で当院受診、両側TA・EHLのMMT0、精査で両側L4椎弓骨折、L4/5椎間板腔の狭小化、L4/5椎間板ヘルニアあり。初回手術6ヶ月後に再手術(L5 pedicle screw追加、前回固定部と連結、L4/5開窓、ヘルニア摘出)、術後疼痛は消失するも筋力改善なし。その後の経過でimplant下端でのトラブル、L5椎弓骨折を疑う所見あり。
【考察及び結論】今回は除圧固定を行い、固定下端側での骨折、隣接椎間障害、implant failureを経験した。透析患者の腰椎変性すべり症に対して固定を行った後の経過には普段以上に注意を要する。
16.高齢者の急性腰痛に地域で対峙し椎体骨折の重症化・難渋化の予防に立ち向かう

中国労災病院 整形外科1)
呉市地域保健対策協議会 骨粗しょう症地域包括医療体制検討小委員会2)
呉共済病院 整形外科3)
マッターホルンリハビリテーション病院4)
呉中通病院5)
済生会呉病院 整形外科6)
呉医療センター・中国がんセンター 整形外科7)
沖本クリニック8)

濱﨑 貴彦(はまさき たかひこ)1)2)、寺元 秀文2)3)、白川 泰山2)4)、中川 豪2)5)、山崎 琢磨2)7)、水野 俊行2)6)、力田 高徳7)、藤本 英作1)、沖本 信和2)8)

 人口21万人の広島県呉市でのレセプトデータ調査によると、2015年には65歳以上の高齢者6.6 万人中1033例の臨床椎体骨折が発生し(第91回本会既報)、その後2017年まで発生率が上昇、ピークを迎えた後は減少傾向にあります(第96回中川)。手術に至る割合(2015年)は5.1%で、BKPが3.0%、脊椎固定術が2.0%でした(第92回)。当院では2020年7月から、高齢者の急性腰痛に対する治療4か条として,外固定によるダメージコントロール、積極的な入院、正確な診断(レントゲン荷重位側面, MRI, CT, 骨密度)、骨粗鬆症薬物治療の導入を徹底し、日常生活動作の維持が実現しました(第96回月坂)。この知見を基に2022 年10月から、市内すべての急性期病院と複数の回復期病院で椎体骨折地域連携パスを運用開始。急性期病院での保存治療を基に、病院間で多職種が情報を共有し、回復期病院でも治療継続と自宅退院調整を重視しています(第96回)。今後は、椎体骨折における地域連携と二次骨折予防が重要視され、椎体骨折の重症化・難渋化の予防に向けて脊椎外科医の積極的な関与が求められるでしょう。
*17.エコーガイド下ブロックで診断・治療した難治性外傷性仙腸関節障害の1例

島根大学医学部 整形外科

大畑 康明(おおはた やすあき)、真子 卓也、杉原 太郎、永野 聖 

 14歳男性。陸上部。初診の6ヶ月前に神楽の演舞中に数メートルの高さから転落し受傷した。荷重時に強い左臀部痛があり、近医整形外科開業医や総合病院を受診し精査されるも原因不明とされた。疼痛のため座位保持困難で、通学も困難な状況であった。当科初診時、左臀部~大腿、下腿にかけてデルマトームに一致しない疼痛の訴えがあったが、神経脱落所見はなかった。腰椎・骨盤単純X線像で骨性の異常所見はなかった。腰椎・骨盤部MRIにおいても分離症などの器質的異常は指摘できなかった。One finger testで左上後腸骨棘に圧痛があり、Sacroiliac joint shear test 陽性であり、仙腸関節障害を疑い、仙腸関節後方靭帯群に1%リドカイン5ccでエコーガイド下ブロックを行った。初回ブロック後、NumericalRating Scaleは10から5へ改善した。1週ごとに施行し、徐々に疼痛が改善した。計6回施行したところ疼痛は消失し、独歩安定して可能となり復学できた。
 難治性外傷性仙腸関節障害の1例を報告した。経過の長い仙腸関節障害に対しても本症例ではエコーガイド下仙腸関節後方靱帯ブロックが診断・治療に有用であった。
18.腰椎椎間板ヘルニアにおける矢状面の脱出方向を規定する因子の検討

福岡大学病院 整形外科

吉村 陽貴(よしむら あきたか)、森下 雄一郎、真田 京一、柴田 達也、田中 潤、山本 卓明

【はじめに】脱出型腰椎椎間板ヘルニアにおいて、椎体後壁窩に存在するAnterior Epidural Space(AES)の解剖学的構造が脱出方向に関与すると予想される。本研究の目的は、AES容積をCT上で計測し、ヘルニア脱出における病態生理を明らかにすることである。
【方法】当院の過去10年間における、単椎間の脱出型腰椎椎間板ヘルニアに対して手術加療を行った42例を対象とした。AES容積は、ヘルニア高位の頭尾側2椎体で計測を行った。CT 矢状面で椎体後壁の陥凹部の面積を求め、総面積和×スライス幅=AES容積として求めた。副次評価項目として、年齢・性別・障害根数・椎間板高・動態不安定性を調査した。
【結果】頭側脱出14例(P群)、尾側脱出28例(D群)であった。当該椎間の頭側/尾側AES容積比はP群で高い傾向にあった(p<0.01)。また2根障害はP群で多く、disc heightはD群で高かった。その他の項目は差がみられなかった。
【考察】脱出型腰椎椎間板ヘルニアは重力に従って尾側脱出が多いとされているが、AES容積が有意に頭側で大きければ、より脱出抵抗の少ない頭側へヘルニアが脱出することが示唆された。
19.腰椎椎体間固定術における血液型O型非O型と周術期出血量の関係

那覇市立病院 整形外科

勢理客 ひさし(せりきゃく ひさし)、比嘉 勝一郎

【対象と方法】対象は60歳以上で除圧術を含まない1椎間のみのmini open TLIF/PLIFを行った症例のうち透析例、感染例およびデータ不備例、術後輸血例、アスピリン継続手術例を除く163例とした。平均年齢は72.6±7.3歳、男性68例、女性85例であった。検討項目は身体所見、推定循環血液量(Nadlerの式)、術中出血量、術後出血量、推定出血量(術翌日、術7日目:Grossの式)およびhidden blood loss(術7日目)とした。アスピリン継続手術例は全例非O型で、さらに出血量がアスピリン継続例は有意に周術期出血量が多かったことから、アスピリン継続例10例を除く153例で年齢、男女比、BMI、抗血栓薬に関して調整後にO型、非O型の2群間で上記項目に関して比較検討した。
【結果】身長、体重、BMI、術前推定循環血液量に関して両群間に関して有意差を認めなかった。術中、術後の合計出血量はO型(53例)、非O型(100例)の順に414±176ml、437±169ml、術翌日推定出血量は617±353ml、566±245ml、術7日目の推定出血量は750±369ml、718±283ml、術7日目のhidden blood loss は336±306ml、281±284mlで両群間に有意差を認めなかった。
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