第100回西日本脊椎研究会  抄録 (一般演題①)【頚椎】


*1.高齢Morquio症候群患者に発症した、歯突起骨による頚髄症の1例

香川大学医学部整形外科

藤木 敬晃(ふじき たかあき)、小松原 悟史、山本 修士、石川 正和

【症例】68 歳女。身長129cm、体重37kg。小児期よりMorquio症候群と診断されるも、未治療であった。3ヵ月前から頚部痛と四肢の痺れを自覚、徐々に歩行困難・手指巧緻運動障害が進行し、紹介となった。身体所見として両上下肢の筋力低下・深部腱反射亢進・知覚鈍麻を認め、排尿障害も自覚していた。単純X線像で歯突起骨があり不安定性を伴っていた。MRIで環椎高位に頚髄圧迫・髄内輝度変化があった。後頭頚椎固定術(Oc-C4)および環椎後弓切除を施行し、術後、四肢のしびれは軽減、術後20日で転院となった。
【考察】Morquio 症候群は、常染色体劣性遺伝のムコ多糖症4型に分類され、重度の骨・関節変形を主症状とする。しばしば歯突起骨を合併し、環軸関節の亜脱臼・不安定性に外科的治療を要するが、高齢者で発症したとする報告は非常にまれである。小児・成人と比較し、高齢患者では元々の脊柱変形に加えて頚椎変性や骨粗鬆症の合併などにより外科的治療はより困難であると考えられた。
*2.重度四肢麻痺を生じた高度脊柱管狭窄を伴う頚椎後縦靭帯骨化症の1例

山口大学大学院医学系研究科整形外科学

田中 一成(たなか いっせい)、鈴木 秀典、西田 周泰、舩場 真裕、藤本 和弘、市原 佑介、坂井 孝司
 
【目的】経皮的環軸椎後方固定術を安全に遂行するため造影CT-angiographyで動脈と静脈系の造影を行い血管損傷のリスクを評価した。
【方法】イオパニドール370の80mlを静注し、動脈と静脈相を20秒間隔でCT撮影し3D画像として再構成した。症例は経皮的C1-2固定の5例(C1-2群)と対照群として中下位頚椎固定の4例(中下位群)で、疾患は歯突起骨折3例、環軸椎亜脱臼1例、歯突起骨1例、頚椎骨折2例、頸髄症2例であった。
【結果】動脈相ではC1-2群ではhigh riding VAは2例、中下位群でC1、C2の外側塊の貫通が各1例あった。静脈相の所見は、静脈叢は後頭骨と環椎後弓の間(O-C1)ではC1-2群で両側3例、片側2例、中下位群で両側4例、環軸関節背側(C1-C2)では3例(C1/2 群1例、中下位群2例)に認められた。VAと静脈を3D fusionさせるとV4segmentに絡み付いた静脈叢がO-C1で明瞭に描出されていた。
【結語】静脈叢の程度は個人差が大きく、術前評価は有用であった。
*3.患者と術者の安全を考慮した頚椎後弯症に対する二期的手術
 
総合せき損センター 整形外科

河野 修(かわの おさむ)、久保田 健介、益田 宗彰、畑 和宏、入江 桃、坂井 宏旭、前田 健
 
【背景】重度の頚椎後弯症に対する変形矯正手術は、前方と後方の両アプローチが必要となり長時間の手術を余儀なくされる。長時間麻酔や出血、感染などのリスク、術者の疲労及び脊髄障害発生リスクなど、長時間手術は患者と術者の両方にとって過大なストレスとなる。
【目的】頚椎後弯症に対して行った予定二期的手術の意義を考察すること。
【方法】症例1、強直脊椎に角状局所後弯と重度脊髄障害を伴った若年性関節リウマチ例。症例2、外傷後高度後弯変形による水平視困難例。いづれも、後方骨切りと前方解離及び後方インストゥルメンテーションを組み合わせて行っており、あらかじめ二期的手術を計画してそのインターバルにはハローベストを用いて緩徐な矯正を行った。
【結果】2例とも脊髄障害や全身合併症なく良好な矯正が得られ、それぞれの手術がほぼ日勤帯に終えることが出来た。
【結論】計画的な二期的手術により、脊髄障害や全身状態悪化などの合併症を生じることなく手術目標を達成することができ、医療スタッフの時間外労働も回避できた。
4.頚椎椎弓形成術後の1週以内における脊髄アライメントの変化
 
1)福岡大学医学部整形外科学教室
2)大分整形外科病院
 
柴田 達也(しばた たつや)1)、木田 吉城2)、森下 雄一郎1)、田中 潤1)、大田 秀樹2)、井口 洋平2)、眞田 京一1)、吉村 陽貴1)、山本 卓明1)
 
【目的】頚椎椎弓形成術 (CLP) 後1週以内における脊髄の変化について調査した。
【対象と方法】対象は2021年から2023年の両開きCLP 51例で、術前,術翌日と1週でMRIを撮像し、翌日と1週での脊髄shift量を比較した。年齢、性別、疾患、BMI、術後C5麻痺、C2-7角、硬膜前後径、最狭窄部、髄内高輝度、除圧椎間数・距離、術後血腫を評価し、C4/5 shift : 3mm以上をgreat shift として寄与因子を検討した。
【結果】C4/5 shift は、翌日で平均1.4 ± 0.9mm、1週で平均0.6 ± 0.6mmであり、翌日のshiftが1週よりも大きかった (p<0.001)。great shiftは6例で平均3.2 ± 0.3 mm、多変量解析より術前のC5/6 硬膜前後径がgreat shift に寄与する要因であった (OR=0.46、p=0.04)。術後C5麻痺は認めなかった。
【考察】術前にC5/6で硬膜の高度狭窄があると、除圧後の反張力によりC4/5で脊髄はより後方にshiftすると考えられた。
5.頚椎椎弓形成術後に再手術を要した3例
 
福岡山王病院 整形外科
 
金山 博成(かねやま ひろなり)
 
【背景・目的】頚椎椎弓形成術の成績は良好であり、一般的に普及している手術方法である。稀に、頚椎椎弓形成術後に再手術を要する。今回、圧迫性脊髄症に対する頚椎椎弓形成術後、脊髄症の増悪を認め、再手術を要した3例を報告し、病態を解明する。
【症例】①72歳、男性。頚椎症性脊髄症に対して頚椎椎弓形成術、C4/再狭窄、C4/5前方固定術を施行した。C4/5で前方骨棘、開大椎弓の閉鎖を認めた。② 65歳、女性。頚椎後縦靭帯骨化症による脊髄症に対して頚椎椎弓形成術(C3/4固定併用)、C4/5 再狭窄、C4/5前方固定術、C3-6後方固定術を施行した。C4/5で後縦靭帯骨化、動態不安定性を認めた。③ 79歳、女性。頚椎症性脊髄症に対して頚椎椎弓形成術、C5/6再狭窄、C5/6前方固定術を施行した。C5/6で動態不安定性を認めた。
【考察】① 前方圧迫の遺残と開大椎弓閉鎖による後方圧迫を認めた。② 前方圧迫の遺残、C3/4固定術後、C5/6椎体癒合あり、隣接C4/5での不安定性を認めた。③ C4/5、C6/7 椎体癒合を認め、隣接C5/6での不安定性を認め、既往にパーキンソン病、円背、首下がりの合併を認めた。
6.不安定性のない非骨傷性頚髄損傷に対する手術療法について
 
鳥取大学 整形外科

三原 徳満(みはら とくみつ)、谷島 伸二、武田 知加子、藤原 聖史、永島 英樹
 
【はじめに】不安定性のない非骨傷性頚髄損傷に対する手術療法に関して、これまでに多くの研究がされてきたが定まった見解がない。
【目的】不安定性のない非骨傷性頚髄損傷の手術成績を保存療法群と比較検討すること。
【対象・方法】2010 年から2022年までに治療を行った、不安定性のないAIS AまたはBの非骨傷性頚髄損傷(脊柱管狭窄あり)を手術群:O群と非手術群:C群に分けて比較検討した。調査項目は、年齢、性別、初診時・最終観察時AIS、合併症とした。
【結果】O群は5例、C群は11例で、年齢は平均でO群:77.8 歳(65-91歳)、C群:64.9歳(50-83歳で、男性の割合はO群:2/5例(40%)で、C群9/11例(82%)であった。合併症は2群間に有意差を認めなかった。AISはO群で全例1段階以上改善していたが、C群は3/11例(27%)のみ改善を認め、2群間に有意差を認めた。しかし、O群の中で歩行ができるようになった症例は1例のみであった。
7.Down症を伴う環軸関節不安定症の加療 ―若年からの定期健診が重要である―

鹿児島大学 整形外科

冨永 博之(とみなが ひろゆき)、河村 一郎、小倉 拓馬、黒島 知樹、上園 忍、谷口 昇

【はじめに】環軸関節不安定症はDown症患者で生じやすい病態である。ただ多くが会話困難であり、重篤な症状で受診し治療に難渋することが多い。今回我々はDown症で上位頚椎手術に至りやすい因子を検討した。
【対象と方法】対象は当科で加療(定期検診含む)を行っている29例。その内環軸関節不安定症に対し11例で手術を行った。手術群と非手術群、また手術群の中でC1-2固定群、O-C固定群を二群間比較した。初診時年齢、性別、定期健診の有無、atlanto-dental interval (ADI) 、C1/4 SAC ratioを用いた。
【結果】初診時年齢中央値6歳、男性17例で経過観察期間は60ヶ月。手術群では初診時年齢が高く、Os odontoideum合併例、定期健診なし例が多かった。手術群ではO-C:6例、C1-2:5例に行われ初診時年齢が低く定期検診している方がC1-2固定で対応できていた。
【考察】Down症の環軸関節不安定症は、若年からの定期検診が症状の重症化や手術の難易度を改善する可能性がある。
8.当科における後頭骨頸椎後方固定術の検討

高松赤十字病院 整形外科

富山 翔悟(とみやま しょうご)、三代 卓哉、大田 耕平、杉峯 優人、殿谷 一朗、筒井 貴彦

【はじめに】環軸椎脱臼、上位頸椎の骨折などでは後頭骨を含めた上位頸椎の固定術が必要となってくる症例も存在する。我々はそのような症例に対する後頭骨頸椎後方固定(O-C固定)を経験したので画像的に検討した。
【対象と方法】対象は2005年から2024年6月までの上位頸椎の手術を行った44症例のうちO-C固定を行った8症例である。平均年齢は78歳、男性2症例、女性6症例であった。 疾患の内訳は環軸関節亜脱臼5例、環椎後頭関節症1例、脊索腫1例、軸椎骨折1例であった。このような症例に対し、 周術期合併症と画像的評価としてO-C2角、pharyngeal inset angle(PIA)の変化とS-Lineの有無を評価した。
【結果】全例で骨癒合を認め、 周術期合併症としては脊索腫の1例で術後感染を認め、洗浄デブリドマンを要したが、嚥下障害、インプラント折損は認めなかった。PIAは7症例で増大していたが、1年以上経過観察した症例では軽度の矯正損失を認めた。S-Line は術後全例で陽性となり、最終経過観察時でも1例を除き陽性であった。
【結語】矯正角度を意識することによりO-C固定を安全に施行できた。
9.当院におけるChiariⅠ型奇形に対する大後頭孔減圧術の治療成績

岡山大学 整形外科

魚谷 弘二(うおたに こうじ)、鉄永 倫子、篠原 健介、小田 孔明、志渡澤 央和、植田 昌敬、鷹取 亮、山下 和貴、尾﨑 敏文

【目的】当院におけるキアリⅠ奇形(CIM)に対する大後頭孔減圧術(FMD)合併症と治療成績について報告する。
【方法】2011 年から2021年の間に当院で手術したCIMの14例を対象とした。術前の症状、診断までの期間、空洞の有無、手術時間、出血量、周術期合併症等について検討した。
【結果】男性1例、女性13例、手術時平均年齢は26歳(8-60歳)であった。症状は神経障害が7例、側弯が5例、側弯と神経障害が2例で、CIM診断まで平均3.5年(0-18年)を要した。空洞は12例で認めた。平均手術時間は137分(70-315分)、平均出血量は98ml(10-400ml)であった。周術期合併症は10例(71%)に起こり、髄液漏6例、AARF2例、嚥下障害1例、後頭神経痛1例、急性硬膜下血腫1例、結膜炎1例であった。空洞を認めた10例のうち、改善維持:5例、改善後再発:4例、改善なし:3例であった。側弯を認めた7例のうちCobb角改善:1例、不変:3例、進行:3例で、うち2例で矯正手術を要した。
【考察】FMDの合併症は71%と高い発生率だった。側弯の改善は14%に認め、若年で空洞の改善を認めていた。

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