第87回西日本脊椎研究会 抄録 (一般演題5)


33.当院における脊椎手術部位感染症の危険因子

戸畑共立病院 整形外科1)、産業医科大学 整形外科2)

 清水 建詞(しみず けんじ)1)、大友 一1)、大茂 壽久1)、古子 剛1)、長島 加代子1)、濱田 賢治1)、鈴木 正弘1)、蒲地 康人1)、舛本 直哉1)、田原 尚直1)、中村 英一郎2)

【緒言】当院脊椎手術におけるSSI危険因子について検討を行った。
【方法】平成20年6月~平成28年12月に当科で脊椎手術を施行した459例を対象とした(平均年齢62歳、男性297例、女性162例)。手術部位は頚椎83例、胸椎30例、腰椎358例であり、148例でimplantを使用していた。この期間におけるSSIは16例(3.5%、表在感染5例、深部感染11例)であった。SSI群16例と非SSI群443例において年齢、性、BMI、Alb値、喫煙、手術部位、術中出血量、手術時間、単/多椎間、再手術の有無、内服薬数、steroid使用、併存疾患、Charlson Comorbidity Index(CCI)を比較し、単変量解析にてp値0.05未満の項目について多変量分析を行った。統計は単変量解析としてMann-Whitney U検定あるいはカイ二乗検定を、多変量解析としてロジスティック回帰分析を用いた。
【結果】単変量解析にて統計学的有意差を認めた項目はBMI30以上、喫煙、手術部位(頚椎)、術中出血量、手術時間、多椎間手術、implant使用、CCI(4点以上)、steroid使用、BMIの10項目であった。年齢を加えた11項目で多変量ロジスティック回帰分析を行い、喫煙およびBMIの2つが有意と判定された。
34.当院における脊椎術後感染症の検討

福岡大学 整形外科

田中 潤(たなか じゅん)、信藤 真理、山本 卓明

整形外科手術において、手術部位感染症は重大な合併症である。整形外科手術の中でも脊椎手術は特に術後合併症のリスクが高いとされる。今回、我々は当院で施行した脊椎手術のうち、術後感染のために再手術が必要であった症例について後ろ向きに検討したので報告する。2011年4月~2017年3月の7年間において当院で手術を施行した1025例中21例(2.05%)で術後感染のための再手術が必要であった。起因菌としては、MSSA6例、MSSE1例、MRSA2例、MRCNS2例、Bacillus群1例、negative8例であった。術式別にみると、転移性脊椎腫瘍(固定)群20%、胸腰椎外傷群4.9%、腰椎変性(3椎間以上の固定)群 4.8%、腰椎変性(3椎間未満の固定)群2.7%、腰椎変性(除圧)群1.25%、頚椎変性(椎弓形成)群0.58%で再手術が施行されていた。諸家の報告と同様にimplant使用例において再手術が多いという結果であり、文献的考察も含めて報告する。
35.PLIF後の合併症脊椎炎の6例の検討

白石共立病院 脳神経脊髄外科1)、伊万里有田共立病院 脳神経外科2)、長崎労災病院 整形外科3)

本田 英一郎(ほんだ えいいちろう)1)、田中 達也2)、桃崎 宣明2)、小西 宏昭3)

【はじめに】 PLIF術後の脊椎炎の早期発見には臨床症状(術後数日後の強い腰痛)、CRP、ESRが脊椎炎診断の決め手となるが今回単純写で移植骨(セラミック)の減少が他の画像診断より比較的早期に現れる。診断的価値も高かったと思われたので報告する。
【症例】 過去2000年から2017年までPLIF280例中6例(2%)に脊椎炎をきたした。6例の年齢は68-78例(平均74歳)で男性は5例あった。術後より高度な腰痛の発現までは3日から40日と差が見られた。CRPで3以下と低値を示す例も2例あり、さらに起炎菌がMRSAは3例であった。定期的腰椎単純写を施行できた3例で強い腰痛から1週間以内に移植骨の減少が認められた。【結果】4例は炎症による骨破壊例であり、前方からの自家骨移植を行い、2例は抗生剤の投与のみで全例ADLが独歩であった。【結語】 Instrumentを使用した場合での脊椎炎は2-5%であり、やはり早期発見と定期的な単純写撮影とCRP, 血沈の総合的判断が必要である。 MRSAの頻度が高く、抗生剤の投与にも注意を要する。骨破壊例には積極的な外科治療が考慮される。
36.頚椎椎弓形成術後感染の機序と当科における対策について

県立広島病院

西田 幸司(にしだ こうじ)、猫本 明紀、石橋 栄樹、井上 博幸、延藤 博朗、亀井 豪器、望月 由 

【目的】頚椎椎弓形成術術後感染の危険因子について数多く報告されているが、その機序についての報告は少ない。本研究の目的は頚椎椎弓形成術術後感染の機序と対策について考察することである。
【症例】頚髄症に対して椎弓形成術を施行した159例のうち、感染を来し手術を要した6例(3.8%)である。それらの症例の画像(MRI、造影CT)および手術所見を検討した。
【結果】画像のある症例では全例、項靱帯下より皮下に連続する液体像が認められた。一部症例では多裂筋下にも貯留像が認められ、術中でも膿瘍が椎弓に達していた。深層伸筋群温存手術に変更後は椎弓への高度感染は認めていなかった。
【考察】項靱帯下に液体貯留を認めることから、同部が初期感染巣であることが疑われた。この閉鎖空間に膿瘍が貯留し、内圧が高くなることで項靱帯より漏出、皮下に到達し皮膚発赤をきたすと考えられる。そのため、予防には開創器設置部でもある項靱帯下組織の十分な洗浄が重要である。また、深層伸筋群は感染拡大のバリアとなるため、温存・再建することが望ましいと考えられる。
37.脊椎手術後における血液培養の検討

那覇市立病院 整形外科

勢理客 ひさし(せりきゃく ひさし)、屋良 哲也

【目的】術後発熱は手術部位感染症を疑わせる所見であり、通常血液培養が同時に行われることが多い。今回、脊椎術後の血液培養の結果を検討したので報告する。
【対象と方法】対象は2008年1月~2016年12月までに施行された脊椎手術1360症例中、術後入院期間中に38℃以上の発熱を生じ血液培養が行われた例のうち、硬膜外膿瘍や化膿性脊椎炎を除いた40例(男性26例、女性14例)である。体温、手術から血液培養までの期間、血液培養採取時の白血球数、CRP、血液培養の結果、最終診断について検討した。
【結果】血液培養採取時の体温は平均38.6℃(38~39.5℃)で、手術から血液培養採取までの期間は平均9.0日(1~34日)であった。血液培養と同時に行った血液検査では、白血球数(30例)が平均9850/μl(4010~19100)、CRP(28例)が平均7.35mg/dl(0.95~21.76)であった。血培培養は2例で陽性であった。最終診断は手術部位感染が5例、尿路感染7例(うち1例は後日手術部位感染発症)、肺炎4例、腸炎2例、インフルエンザ1例であった。手術部位感染例5例のうち血液培養陽性は1例であった。
38.脊椎術後感染におけるインストルメント抜去因子の検討

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科運動機能修復学講座整形外科学1)、鹿児島大学医療環境安全部感染制御部門2)、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科医療関節材料開発講座3)

冨永 博之(とみなが ひろゆき)1)、川村 英樹2)、河村 一郎1)、棈松 昌彦1)、石堂 康弘3)、山元 拓哉1)、小宮 節郎1)

【目的】脊椎術後感染(surgical site infection: SSI)は治療に難渋し重篤な症状につながる合併症である。当科では脊椎インストルメント手術のSSIに対して、創部洗浄しインストルメント温存をはかり、抜去は洗浄後も感染が沈静化しない症例やlooseningを伴う症例に対してのみ行ってきた。今回我々は単一施設で行ったSSIのインストルメント抜去に至る因子に関して検討したので報告する。
【方法】対象は脊椎インストルメントを使用した511例中SSIをきたした16例である。抜去群と温存群にわけて比較した。
【結果】抜去群は4例であった。抜去群/温存群で各パラメーターを比較したところ各中央値で手術回数(3.5/1 p=0.005)、術前Hb(g/dl)(11.0/12.8 p=0.025)、術前Cr(mg/dl)(0.89/0.56 p=0.045)、SSIの多数回洗浄予測因子となるPITSS (Postoperative infection treatment score for the spine)(25.0/19.5 p=0.027)、起因菌MRSA(3/1 p=0.027)で有意差を認めた。
【考察】SSIでインストルメントを温存できなかった一因として貧血、腎機能低下による免疫力低下が考えられた。MRSA以外の起因菌である場合、多くがインストルメントを温存できており、MRSA感染をいかに減少させるかが重要である。またPITSSは抜去予想因子に成り得るものと考えられた。
39.脊椎インストゥルメンテーション手術後感染に対する抗生剤含有セメントビーズの有用性
 
愛媛県立中央病院 整形外科
 
飯本 誠治(いいもと せいじ)、椿嵩 仁、小西 義克、長井 巌、石丸 雅巳、山岡 慎大朗、高須 厚、西村 亮祐、岡田 將誉、中須賀 允紀、日浅 浩成
 
【目的】インプラント使用手術後に感染した症例に対し抗生剤含有セメントビーズを留置しインプラントの抜去を行わずに治癒できた症例を経験したので報告する。
【症例1】64歳女性、主訴は腰痛と左下肢痛、 L3変性すべりとL3/4/5の狭窄症を認めたためL3/4 PLIFとL4/5開窓術を行った。術後34日目に腰痛と創部の熱感、腫脹、発赤を認めた。洗浄し抗生剤含有セメントビーズを留置した。感受性のある抗生剤を投与し再手術後21日でCRPは陰性化した。
【症例2】27歳女性。6階から飛び降り受傷.L1破裂骨折、仙骨骨折を認めた。T12-L2 PPS+L1椎体形成術、Galveston固定を行った。術後1週間で発熱と創部より多量の浸出液を認め創感染と診断し洗浄、デブリードマンを行った。洗浄後10日たっても感染は沈静化せず浸出液の排出が多量だったため洗浄後抗生剤含有セメントビーズを留置した。留置後9日でCRPは陰性化した。
【考察】抗生剤含有セメントビーズは手術部位に高濃度の抗生剤を効率よく徐放することで難治性である脊椎インストゥルメンテーション手術後の感染において持続洗浄やVACなどのように煩雑な管理がなく治癒できる有用な方法と考える。
40.内視鏡下椎弓切除術後にMRSAによるtoxic shock syndrome(TSS)を発症した1例
 
長崎大学病院 整形外科 
 
山田 周太(やまだ しゅうた)、田上 敦士、安達 信二、津田 圭一、尾﨑 誠
 
【症例】症例は52歳男性。既往歴は高血圧症のみ。LCSの診断で内視鏡下椎弓切除術を施行した。第3病日から38~40度台の発熱を認めた。体幹部全体に発赤を認めたが創は問題なく経過観察としていた。第4病日にショックバイタルとなりICU管理とした。血液培養は陰性であったが、創を切開し採取した組織からはMRSAを検出した。TSS診断基準6項目中5項目を満たしprobable TSSと診断した。人工呼吸器管理,血液透析など集学的治療を必要とした。第11病日にICU退室、第24病日に創閉鎖、第37病日に退院となった。後遺症なく通常の職場復帰をしている。
【まとめ】TSSは、黄色ブドウ球菌の外毒素により多臓器不全を引き起こす感染症で、その兆候を見逃すと非常に重篤な病態に陥る。いわゆるcompromised hostに限らず、合併症をもたない患者にも起こりうる、手術や外傷の侵襲の大小によらない、血液培養は陰性になる、など通常の術後創感染症とは異なる側面が多く、注意を要する。低侵襲手術においても起こりうる、TSSに特徴的な兆候を念頭に入れ診療に臨む必要があると考える。
41.胸腰椎前後方手術後の術後合併症の1例
 
福岡東医療センター 整形外科 
 
太田 浩二(おおた こうじ)、宮崎 幸政、吉田 裕俊
 
【症例】74歳、男性
【診断】T12椎体圧潰骨折、L2/3腰部脊柱管狭窄症
【主訴】両下肢脱力、両足関節以下のしびれ
【現病歴】2016年4月未破裂脳動脈瘤に対してクリッピング術施行、6月慢性硬膜下血腫に対して穿頭術、8月退院して4回程転倒した。10月上旬から腰痛出現、10月中旬から両下肢脱力を自覚し徐々に歩行困難となった。
【神経学的所見】下肢反射:両側PTR消失、両側ATR消失、下肢筋力:Active SLR両側30度、Q以下両側2~4+、下肢知覚:両側L5-S2領域に知覚鈍麻を認めた。
【画像】T12圧潰骨折、L2腰部脊柱管狭窄症(椎間孔狭窄)がみられた。
【手術】11月T10-L3後方固定、L2/3PLIF施行し、1週間後にT12椎体亜全摘、T11-L1前方固定を行った。
【術後経過】前方術後胸水の貯留を認め血液検査上炎症反応の異常の継続がみられた。当初胸水貯留の影響かと思われたが、腰痛の出現を認めMRI検査にてL2/3椎体間感染が判明。2017年1月L2/3前方固定術を行い炎症反応は沈静化した。
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